銀座進出した無印良品 高級百貨店ひしめく中で輝く深いワケとは?繁盛店から読み解くマーケティングトレンド(4/4 ページ)

» 2019年07月10日 07時00分 公開
[岩崎剛幸ITmedia]
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色あせつつある百貨店の「売り方」

 小売業にはさまざまな販売方式があります。

 従来、日本の小売業の王様であった百貨店は、駅前の好立地に店を構え、建物などのハードに投資をし、そこに数多くのテナントやショップを誘致して、それらの総合的な魅力によって商売してきた業態です。ですからより多くのモノを購入してもらうための販促企画の重要性は高く、「北海道物産展」などの強烈な集客企画も生み出してきました。店をたくさん集めることで、幅広い顧客に対して魅力的な「売るための企画」を打って繁盛してきたのです。

photo 従来型の代表的な百貨店の戦略(筆者作成)

 しかし、そうした物産展系のイベントが連発され続けたこともあり、従来の、幅広い顧客に買ってもらうための総合的な品ぞろえ・企画を重視する百貨店の手法はやや色あせつつあります。

 あわせて、イベントなどで売り上げ拡大を意識し過ぎるがあまり、「まずは顧客に来店させる」「顧客の来店頻度を上げる」「店内での回遊性を高める」といった店づくりの鉄則を外してしまったことが 、百貨店衰退の1つの要因なのではないでしょうか。

 一方、無印良品の場合はそもそも40アイテムからスタートした西友のPB商品が始まりです。そこから試行錯誤を繰り返し、自社での企画製造にこだわり、今や6,500アイテムとも言われるアイテム数にまでその規模を拡大させています。その集大成とも言える銀座店は、既存の百貨店と比べても、多種多様に渡るアイテムが「無印ワールド」で統一されているという強みを持ちます。

1.総合的な品ぞろえの裏にある統一的な世界観

2.立ち寄りやすく回遊性の高い店づくり

3.「売り」先行ではなく、「体験」を重視した販促企画

 さらに、有田店長によると、無印銀座店では野菜や弁当といった、銀座にある小売店としては比較的安めの商品が特によく売れているそうです。無印銀座店が今後、高単価な商品で勝負する百貨店と肩を並べて銀座で勝ち抜けるかは予断を許しませんが、こうした低単価な商品も大切にしたり、気軽に立ち寄れるカジュアルな店づくりを重視したりしている点も特筆すべき点です。こうした「身近な店づくり」が今、銀座に買い物に来ているマダムをはじめ、さまざまな客層に支持を広げているもう1つの理由と言えるかもしれません。

photo 無印銀座店ではちょっと珍しい野菜など生鮮品も売れ筋

 現在、百貨店各社は上記のように、その方向性が分かれ始めています。各社ともに危機感を持ち、新たなビジネスモデルを作ろうと必死になっています。

 単に「総合的な品ぞろえ」だけが時代に合わなくなったのではありません。売上先行主義のビジネスモデルに偏った結果、本来の「顧客を楽しませ、顧客が店に来たくなる導線」を見失ってしまったのです。

 今の消費者は店だけでなくネットでもさまざまなモノを目にし、購入もできます。しかし、海外のネット企業が次々とリアル店舗を買収したり業態開発をしているように、実は先進的な企業はリアル店舗にこそ可能性を見いだしているとも言えます。例えば、ECに比べて実際に顧客のナマの声を拾える点などが大きいのです。

photo 無印良品 銀座の有田明央店長

 それだけ顧客と直接接触できるリアル店舗には、企業側から見た意外な魅力があるということです。しかし、最近の百貨店ではとかく業態論が議論されることが多く、脱百貨店、デベロッパー的な店舗戦略への転換などを叫ばれることが増えています。

 本質的にはそうではありません。銀座のような、まさに高単価な商品を売る小売店が軒を連ねる中で、無印銀座店の有田店長は「公園のように使ってもらいたい」とまで言っています。従来型の百貨店に必要なのは業態論以上に、このようにより顧客の立場に立った店づくりを考えることではないでしょうか。同店はまだスタートを切ったばかりですが、ヒントとなる一例と言えるかもしれません。

著者プロフィール

岩崎 剛幸(いわさき たけゆき)

ムガマエ株式会社 代表取締役社長/経営コンサルタント

1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、同社創業。ファッションを専門分野とした流通小売業界のコンサルティングのスペシャリスト。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。

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