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希望した客はいつもタダ! 奈良のトンカツ「無料食堂」が繁盛する深い訳繁盛店から読み解くマーケティングトレンド(1/6 ページ)

» 2019年04月19日 07時00分 公開
[岩崎剛幸ITmedia]

 奈良にある飲食店が2018年5月から始めた取り組みに私はひきつけられました。それは「どうしてもお腹がすいて、それでもお金がなくて困ったら、お店の店長に相談してください。無料でお腹いっぱい食べていいですよ」というものです。

 無料です。半額キャンペーンなどではありません。代わりにお店で働いてもらうわけでもありません。週末だけの限定企画でも、周年祭でもない。純粋に毎日やっている取り組みです。こんな店が世の中にあるのかと驚きました。

 このトンカツ店「まるかつ」(奈良市神殿町)はなぜこんな取り組みを始めたのか。みんなが無料で食べたい!とはならないのか。有料で食べている人は常に社会貢献で食べに来ているのか。この目で確かめたくなって実際に行ってきました。

photo 奈良のトンカツ店「まるかつ」(同店のWebサイトから引用)
photo まるかつに貼られた「無料食堂」の告知

あくまで「純粋な善意」から

 同店の金子友則店長が店のWebサイトで載せている文章を、一部抜粋して紹介します。

 私は、お金で困っている人に頼まれてお弁当を差し上げていたことがあります。その人は、甘えてしまったのか要求が少しずつエスカレートしていったので、さすがに注意したら、お店にほとんど来なくなりました。別の人で、後日きちんとお金を払ってくれた人もいました。本当に意味のあること、その人の役に立つことができたのか、今でも私にはわかりません。もっと私が勉強していたら、別の方法でその人を助けることができたかもしれません。

 今の私は、正直、自分のお店のことで精一杯です。2店舗目も、3店舗目も出していきたいという夢もありますので、これからもしばらくは余裕などないと思います。でも、それを理由にあまり負担にならない範囲での出来ることすらしないのもどうかな、といろいろ考えましたので、とりあえず、自分が出来る範囲のことをやらせていただきます。

 「まるかつ無料食堂」を実施するにあたっては、私の一人よがりにならないように信頼できる人に相談しました。もしかしたら、私の想像力を超えた迷惑がどなたかにかかるかもしれませんので。たとえば、ほかの飲食店さんに無料で食事させろ、とか。もちろん、そういう風潮になることも望んでいません。

 各地の「子ども食堂」の現実、孤食が原因のさまざまな社会問題などがあることなど、まだまだ浅いですが私なりに勉強しました。子どもだけではなく、大人、高齢者の貧困なども問題視されています。自助努力が足りないと切り捨てるほど社会はまだちゃんとは出来ていないはずです。どうにかしようと本当にたくさんの人が努力されています。こんな私でも、きっと何もしないよりはいいかもしれないと思いました。今ある社会のセーフティーネットで拾いきれないことが、無料食堂で拾えるかもしれませんし。

 料理人としては、食べていただけることは掛け値なしにうれしいことです。お腹が落ち着けば元気も出るかもしれませんし、少しは前向きな気分になれるかもしれません。他人を信頼して頼ってみようという気持ちになるかもしれません。その最初の一歩になったりできたらうれしいです。

 (ここまで抜粋)

 純粋にただ善意で、困っている人にトンカツを食べさせたいという思いでやっているのです。

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