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» 2019年04月19日 07時00分 公開

繁盛店から読み解くマーケティングトレンド:希望した客はいつもタダ! 奈良のトンカツ「無料食堂」が繁盛する深い訳 (5/6)

[岩崎剛幸,ITmedia]

顧客と共有の価値を作る「マーケティング4.0」

 以前、日本で開催されたマーケティングの国際会議「ワールドマーケティングサミット」で、世界的なマーケティング学の権威、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院のフィリップ・コトラー特別教授がこう述べたことがあります。

 「これからはマーケティング4.0の時代に入ります。1.0 はユーザーの要望に応えるマーケティング。2.0はユーザーの心に響くマーケティング。3.0はユーザーのスピリット、精神性をくすぐるようなマーケティング(哲学や理念に共感)。そして、4.0は共有の価値を作る、世界に認められるような提案をすることが日本企業にとってはとても大切です」

 企業のマーケティングを取り巻く環境は激変しています。ユーザーに長く支持を得る企業で居続けるためには、自社の利益だけ、自社のエゴだけを考えていたら生き残れない世の中になり始めています。大企業ではCSR(企業の社会的責任)に基づいて、事業で得た利益の1%程度を社会貢献に回そうという取り組みも一般化し始めています。

 またCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)経営という言葉も広がっています。11年にハーバード大学経営大学院のマイケル・ポーター教授らによって提唱された概念です。企業は「利潤という経済的価値」だけではなく、「社会への貢献度という社会的価値」を同時に追求することで、イノベーションを生み、新たな事業創造につなげられる、という考え方です。このような概念を追求する企業をソーシャル企業(社会にとって必要な企業)とも呼びます。

 これからは中小企業と言えども、単なる自社の利益、自社の成長だけを考えていてはだめで、社会課題の解決や地域問題の解決などに事業を通じて取り組むことが新たなマーケティングトレンドです。

 例えば、寒天のブランド「かんてんぱぱ」で知られる伊那食品工業(長野県伊那市)は朝の掃除が有名です。

 本社でも東京事務所でも、社員は自主的に始業前に出勤し、会社だけでなく近所も竹ぼうきで掃除しています。筆者もたまたま同社の東京事務所前を通ることが多いのですが、社員がスタッフジャンパーを着て掃除をする姿をよく見かけます。

 会社と関係ない公園や緑道、近隣の小学校の方まで掃除をしています。特に当番が決まっているわけでも担当場所が決まっているわけでもないそうです。社員一人ひとりが考え、必要だと思う場所を掃除しているのです。これがほぼ毎日行われています。これは同社の理念である「いい会社をつくりたい」という考え方が表れている地域貢献活動です。

 「掃除をするからもうかる」というような短絡的な考え方ではなく、「この地域で仕事をさせていただいている企業」として当たり前の活動、という認識なのです。社会や地域への貢献は掃除だけでもできるのです。

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