新型特急「ひのとり」がくる! 2020年、近鉄から目が離せない杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)

» 2020年01月17日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

複数集電方式で大阪万博と奈良を結ぶ

 「近鉄グループ経営計画」においては、複数集電に関する構想もある。奈良や三重県の賢島と、大阪の人工島、夢洲を結ぶルートを想定している。夢洲は25年の大阪万博の開催地であり、政府が推進するIR(統合型リゾート)の候補地として有力だ。それらの交通アクセス手段の一つとして、大阪メトロ中央線を延伸させる計画がある。

 大阪メトロ中央線は第三軌条方式といって、線路脇に給電用のレールを設置し、車両側のコレクターシュー(集電靴)から電気を取り入れる。この路線は近鉄けいはんな線が相互直通運転を実施している。従って、近鉄けいはんな線も第三軌条方式だ。近鉄けいはんな線は生駒駅で近鉄奈良線に接近している。しかし、近鉄は奈良線も含めてほとんどが架線集電方式である。軌間は両方とも標準軌だけれども集電方式が違うため直通できない。

 実は、近鉄けいはんな線と近鉄奈良線の線路はつながっている。けいはんな線の車両を近鉄大阪線の五位堂へ回送して定期検査を実施するためだ。ただし、けいはんな線の車両はパンタグラフを持っていないため、近鉄奈良線、大阪線では自走せず、他の車両にけん引されている。けいはんな線の電車にパンタグラフを取り付けて、しかるべき回路装置を取り付ければ、直通運転は可能だ。

 ちなみに複数集電方式は海外で運行事例がある。最も有名な路線は英仏海峡トンネルだ。英国国内の在来線区間が第三軌条方式になっているため、特急「ユーロスター」用の車両はパンタグラフとコレクターシューの両方を搭載している。日本でも信越本線横川〜軽井沢間で最初のトンネルが第三軌条方式で電化され、直通できる電気機関車もあったという。

 近鉄奈良線とけいはんな線を直通するためには、複数集電対応車両だけではなく、線路の接続点の改良も必要だ。現在の入れ替え用の分岐点ではなく、直通運転にふさわしい分岐点を設置する必要がある。そして何よりも、大阪メトロ中央線の延伸が前提だ。

夢洲と奈良、賢島を結ぶ観光列車を計画している(出典:近鉄グループホールディングス「近鉄グループ経営計画」)

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