フリーゲージトレインと複数集電対応に期待する理由は、近鉄の発展を祈念するためだけではない。この2つの技術は、いままでの相互直通運転の常識を覆し、都市部に新たな路線網を築く可能性があるからだ。
例えば、フリーゲージトレインの技術は、東京都大田区と東急電鉄が進めている新空港線(蒲蒲線)において、京急電鉄空港線への直通に応用できる。東急電鉄は狭軌、京急電鉄は標準軌のため、直通させるには青函トンネルのように3本のレールを敷き両方の軌間に対応させる方法が検討されていた。しかし京急側の改良設備コストが大きいことから見送られ、大鳥居駅乗り換えが有力になっている。
複数集電方式は、いままで相互直通運転から取り残された地下鉄と郊外鉄道の直通に使える。かつて、大阪メトロ四つ橋線を阪急十三駅に延伸する構想があったけれども、さらに発展させて直通運転も可能だ。奇抜なアイデアとしては野田駅を介して阪神電鉄と大阪メトロ千日前線を直通させてもいい。フリーゲージトレインと複数集電を同時に採用すれば、京王電鉄井の頭線と東京メトロ銀座線の相互直通運転も絵空事ではない。
近鉄がやろうとすることは、日本の鉄道の未来を変える力がある。その進捗(しんちょく)がとても楽しみだ。実現は遠くても、今年中に試作車両の完成予想図くらいは見たい。いままで「そんなことできない」と真っ向から否定していた人々の、重い心の扉を開けてくれ。2020年、最も期待する鉄道会社の筆頭は近畿日本鉄道だ。
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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