同社にとって渾身の1本ともいえる商品が完成したが、営業活動も困難を極めたという。まずは販売店や市場に「ブレ」が何かを認知させる必要があったのだ。発売当初、営業を担当していた樺島氏は「販売店に提案しても『ブレって何』という反応が返ってきていた。『まずは書いてみてください』と、従来品と比較をしてもらいながら、地道に営業活動を続けた」と当時を振り返る。
映像でブレを確認してもらうため、従来品とブレンのペン先の動きを撮影してYouTubeなどで公開。また「ブレン」を愛用するユーザーを「ブレンアンバサダー」として募集し、SNSや口コミで「ブレン」の良さを発信してもらう訴求方法をとった。テレビCMなどで広く展開する訴求方法ではなく、メインターゲットであるビジネスパーソンに向け、焦点を絞った戦略で認知度を広げていった。
その結果、口コミやSNSで書きやすさやデザインなどが話題となり、発売1年で累計販売数500万本を突破。20年3月には3色ボールペンの「ブレン3C」、21年2月にボールペンとシャープペンが1本にまとまった「ブレン2+S」(550円)を発売した。
多機能ペンは単色ペンに比べ構造が複雑だ。また、ボールペンとシャープペンのペン先の太さが異なるため、従来の多機能ペンは中芯とペン先の間に隙間が生じていた。そこで同社では、ブレン専用のシャープメカを開発。ペン先のサイズをボールペンと同じになるように工夫し、ブレを抑えた。ペンのデザインもシリーズで統一感を持たせるためスリム化し単色のブレンと同じサイズを実現した。
コロナ禍で在宅勤務が定着したことも後押しし、さまざまな分野でデジタル化やペーパーレス化が進んでいる。かつてのように企業が事務用品としてペンを大量買いする需要は減っているが、樺島氏は「こだわりを持った筆記具を買う人が増えてくるだろう」と筆記具の未来を予想する。
「デジタル化で『紙に文字を書くシーンが減少する』という話は10年以上前から言われている。ただ、モノを書かなくなったかというとそうではない。これからもクリエイティブな思考を邪魔しない製品として新しい筆記の価値を提案していきたい」(樺島氏)
デジタル化が進む今、ブレずに製品を作り続けることがヒット商品を生み出す鍵なのかもしれない。
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