リテール大革命

全員退職、数億円の借金──どん底で生まれた“接客DX”アプリ「STAFF START」は何がすごいのかEC売り上げ、700%UPの企業も(4/5 ページ)

» 2021年09月13日 07時00分 公開
[酒井真弓ITmedia]

 「STAFF STARTを作ってくれ」と、小野里さんが100万円をかき集めて声をかけたのが、当時フリーランスだった大貫 BOB 隆之さん(バニッシュ・スタンダード CPO兼取締役)だ。「面白そっすね」と言って大貫さんは相談に乗ってくれた。資金は底をついたが、こうしてSTAFF STARTは生まれた。

 大貫さんが開発し、小野里さんが売って運用もする。「こんなの売れない、まねされたらおしまいだ」、誰かにそう言われるたびに2人で試行錯誤した。会社に血が通うようになっていた。

大貫 BOB 隆之さん(左)と小野里さん(右)

 「運用は僕1人だから、問い合わせの電話も受けるんです。『代表の小野里さんいますか』と言われたら、『少々お待ちください』って保留して、『お待たせしました小野里です』なんて1人2役やっていました。小さい会社なんだとなめられたくない一心でした」

後発の「STAFF START」が圧倒的シェアを獲得できた理由

 いわゆるコーディネートアプリでSTAFF STARTは後発だ。導入が進んだ要因を、小野里さんはこう分析する。

 「店舗スタッフに焦点を当てたことです。当時はどのアプリもアパレル本社も、コーディネートが重要だと言っていました。でも僕は、重要なのは店舗スタッフだと思っていました。だから、STAFF STARTと名付けたんです」

 小野里さんは、店舗スタッフがコーディネートを撮影し、ECに掲載されるまでを見学させてもらった。すると、デジカメで撮影し、自分の携帯から会社のメールアドレスに転送し、本文にコーディネートの説明や品番を書き、店舗のPCから本社のEC担当者に送り、EC担当者が編集してアップしていた。「これでは投稿は増えない」と思った。

 「本社側は『スタッフが大変な分にはいいよ』と言うんです。でも、コーディネートを生み出すのは店舗スタッフです。業務の合間に楽に投稿できる仕組みを作りました」

 狙い通り投稿は増えた。だがまだ足りない。本社の指示で投稿している店舗スタッフたちが、自発的に投稿したくなる仕掛けを作りたかった。

 「僕は店舗スタッフの給料が上がらないことに問題意識を持っていました。ECに投稿して売れても店舗スタッフの評価にはならない。功績を正当に評価できる仕組みにしないと、本当の意味で店舗スタッフを幸せにすることはできないと思いました」

 そこで、ECへの集客・売り上げなどあらゆる実績を数値化し、自分の投稿を経由してECで売れたらプッシュ通知が届く仕組みを施した。店舗スタッフの間で面白いと火がついて、2倍、3倍のコーディネートが投稿されるようになった。投稿が増えれば自然と売り上げも上がる。月間9000万円以上の売り上げをたたき出す店舗スタッフまで現れた。

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