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「料理がツラい」 子育て奮闘中のライオン社員が作った新サービスが、愛されるワケ近所の飲食店が、1週間夕食を作る!(1/3 ページ)

» 2021年06月28日 07時00分 公開
[酒井真弓ITmedia]

 ライオンは今年2月、夕飯作りに悩む人と、近所の飲食店をつなぐテークアウトサービス「ご近所シェフトモ」をスタートした。ユーザーは、LINEで1週間の夕食作りを近所の飲食店に依頼できる。料理の手間を軽減し、子育て中の共働き世帯を支援するという。

 単身の筆者は思った。「デリバリーでよくない?」と。家にこもって仕事をすることの多い筆者とって、デリバリーサービスで豊富なメニューから食べたいものを選ぶ時間はいい気晴らしとなっている。

 なぜ、ライオンはテークアウトに特化したのか。それで果たして事業はスケールするのか。起案者のイントレプレナー(社内起業家)廣岡茜さんに聞いた。

「ご近所シェフトモ」加盟店の恵比寿「魚竹」。右が廣岡さん

料理を作らなくても、幸せな食卓は作れる

 ご近所シェフトモは、2019年に開催されたライオン社員による新価値創造プログラム「NOIL(ノイル)」を経て事業化に至った。NOILはLIONの裏読み。創業130年になる老舗メーカーの事業をリデザインする目的で始まった。

 テークアウトに特化した理由は、仕事や保育園のお迎えの帰りに立ち寄れるからだという。デリバリーでは、指定した時間までに自宅に戻らないと受け取れないが、仕事と子育てを両立しているとそれが難しいことがある。

 アイデアは、出張が多く多忙な夫と幼い娘をもつ廣岡さんの日常から生まれた。

 「料理は愛情表現」と思っていた廣岡さんは、自分も働きながら毎朝お弁当を用意し、夕飯も作った。しかし、結婚前から気づいていた。自分は料理が好きではない。栄養バランスを考え、食材を買い込み、調理し、おいしそうに盛りつける。多くの人がさも当たり前のようにやっている(やってもらっている)ことだが、相当なスキルと時間の捻出が必要だ。

 夫の実家から送られてくる野菜には、たけのこや山菜など調理が難しいものもあった。消化できない野菜で冷蔵庫が埋まり、腐っていくのを見ては憂鬱になった。義母の厚意を無駄にしていることに罪悪感を覚えた。

 初めての育児で心身ともに疲弊したのを機に、廣岡さんは料理を手放した。料理から解放された廣岡さんは、違う形で愛を伝えていこうと決めた。バタバタせずに子どもの話を聞いてあげること。近所に家族で行けるおいしいお店を探し、娘の好きなメニューを見つけること。買ってきたお総菜を食べるとき、娘の分はアンパンマンの皿に盛ってプチトマトを添えること。家族3人が集まれる時間は少ないけれど、楽しくおしゃべりして過ごすこと。それにはまず、自分自身が笑顔でいなければ。

 「料理に“手抜き”も“サボり”もない。料理を作らなくても、幸せな食卓は作れる。私はそう信じています」

「負けまくった」過去 名もなきサービスが育つまで

 ご近所シェフトモが正式リリースされて約4カ月、夕食を作ってくれる加盟店は都内に35店舗、ユーザーは2000を超えた。ここまでの道のりは、決して楽なものではなかった。

 事業化のステップは、廣岡さんがそれまで10年開発に携わった洗濯用洗剤とは全く異なるものだった。生まれたばかりのご近所シェフトモは、何もかも自分たちで作り上げていくしかない。

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