韓国や米国、欧州では、ネット選挙は日本に先行して解禁されている。韓国では02年の大統領選で、盧武鉉氏の当選の最大の理由がインターネットの活用と言われており、当時ニューヨークタイムズ紙などの海外メディアが盧氏を「インターネット大統領」と呼んだ。これ以降、韓国の選挙では、ネット選挙が当たり前になっている。
12年の大統領選では、与党を支持する高齢層の有権者が、ネット選挙の力で朴槿恵氏を勝利に導いたといわれている。韓国では、高齢層が保守系の与党を支持して安定を望み、若年層は野党を支持して変革を望む傾向にある。
当時、有権者4000万人のうち3000万人がスマホを所持しており、高齢層にも普及していた。与党セヌリ党の朴陣営は、高齢者にも使われている「カカオトーク」に積極的にメッセージを発信した。
韓国では、大統領選の当日にも時間毎に投票率が発表される。高齢層は、カカオトークを通じて遅い時間の投票への呼びかけを行い、50代以上の投票率を90%に押し上げて朴槿恵氏を勝利に導いた。早い時間に高齢層の投票率が上がると、若年層が対抗して投票に行くと予想したからである。実際に、午前中は野党が有利という発表であったが、最終的には朴氏が当選した。
米国では、08年のバラク・オバマ氏の大統領選から本格的なネット選挙時代に突入した。12年に再選出馬した際、公約をWebサイトやSNSで発信するだけでなく、支持層を固めるためにオンライン上で蓄積されたデータ分析もしていた。このネット選挙を指揮したのは、選挙対策副本部長を務めたデータサイエンティストのジェニファー・オマリーディロン氏という当時30代の女性であった。同氏は、20年の大統領選ではバイデン氏の選挙対策本部長を務めている。
16年の大統領選で政治未経験のドナルド・トランプ氏が当選したのは、ネット選挙の成功事例といえる。同陣営を支援していた選挙コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカ(以下CA)は、「マイクロマーケティング」という手法で、有権者のビッグデータ(SNS上での行動、居住地、人種、性別、収入、社会的地位、心理的特徴など)をAIによってカテゴリー化し、有権者ごとにカスタマイズしたメッセージをネット広告で発信し続けた。
一方で、ヒラリー・クリントン氏の支持層には、夫のビル・クリントン元大統領の不倫スキャンダルのネット広告でネガティブキャンペーンを繰り広げた。後にCAによるフェイスブックの個人情報の不正利用が明るみに出るものの、米国のネット選挙がいかに進んでいるかが分かる。
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