自転車専門店「サイクルベースあさひ」が好調 “斜陽産業”のイメージ覆して急成長した理由長浜淳之介のトレンドアンテナ(5/5 ページ)

» 2022年01月19日 05時00分 公開
[長浜淳之介ITmedia]
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実は伸びている自転車販売市場

 帝国データバンクが21年8月27日に発表した自転車販売市場調査によれば、20年度の自転車販売市場(事業者売上高ベース)は、過去最高の売上高・利益を計上した自転車販売店大手のあさひなどがけん引し、2100億円超と過去最高に達した(前年度比1.1%増)とのことだ。

 15年度は2000億円だったので、右肩上がりに成長している。

 自転車産業振興協会の調査によると、従来のシティバイクと呼ばれる一般車は、電動アシスト自転車の約4倍、スポーツ自転車の約2倍の台数が売れてはいるが、売り上げが急減している。代わって急成長しているのが、高額な電動アシスト自転車、スポーツ自転車である。

幼児二人同乗用電動アシスト自転車「ENERSYS_baby」(提供:あさひ)

 15年を100とした1店舗当たりの販売台数は、一般車は68と低下したのに対して、電動アシスト自転車は151、スポーツ自転車は114と激増。従って、全自転車1台当たり価格は139(出荷時)と単価アップが顕著だ。

 電動アシスト自転車の多くが10万円を超えるため、これまで積極的な購買に結びついてこなかった。しかし、都市部を中心に自動車の代わりに購入するようにライフスタイルが変化。全国民に一律で支給された10万円の特別定額給付金の効果も大きかった、としている。

 スポーツ自転車に関しては、コロナ禍で営業休止したスポーツジムの代替とされた。趣味性の強いロードバイクやマウンテンバイクも、アウトドアブームで人気が高まっている、とのことだ。

 アウトドアに関しては、スポーツ用品店のアルペンが18年から専門業態を立ち上げている。また、家電のビックカメラとホームセンターのコーナンも20年に専門店をオープンさせており、市場が活性化している。作業服のワークマンが急成長しているのも、アウトドア用に転用されているからだ。

 プロショップから発展して広く一般向けの商品をそろえるサイクルベースあさひは、アウトドア向けスポーツサイクルの販売はお手の物で、時流に乗ってますます有利な情勢だ。

 あさひでは自社PBに注力してきたが、直近では、通勤用に開発した「OFFICEPRESS e(オフィスプレスe)」が好調だ。

通勤時の快適性、利便性に特化したスポーツタイプの電動アシスト自転車「OFFICEPRESS-e」(提供:あさひ)

 これは、仕事や日常の時間をもっと有意義に過ごしたいと考えるビジネスパーソンに向けた、電動アシスト自転車。スーツ姿のフォーマル感を損なわない、パーツ細部までこだわったスタイリッシュなデザインが評価され、20年度のグッドデザイン賞を受賞した。ビジネスバッグを入れやすいワイドバスケットや、スーツの汚れを防ぐフルタイプフェンダー、通勤利用を想定してプログラムした電動アシスト機能などを備える。

 また、20年1月には「自転車で広がる、アウトドアの世界」をテーマに新ブランド「LOG(ログ)」を立ち上げた。アウトドアに自転車を持参するのではなく、自転車でキャンプ、ピクニック、BBQなどに出掛けるシーンを想定。自転車でソロキャンプを楽しむバイクパッキングスタイルが流行して、自転車に取り付ける専用バッグのようなアクセサリー類も売れている。

1泊2日ほどの長距離ツーリングも可能な走破性を兼ね揃えたモデル「LOG_ADVENTURE」(提供:あさひ)

 同社は1997年よりインターネット通販に取り組んできたが、コロナ禍で「ネットで注文、お店で受取り」サービスが好評なのも好調な要因の1つだ。

 なお、商品別売り上げ構成比(22年2月期第3四半期時点)は、一般車16.0%、スポーツ車14.8%、子供車11.2%、電動アシスト自転車26.3%、その他自転車3.8%、パーツ・その他27.9%だ。

 22年2月期からは新しい中期経営計画「あさひVISION2025」が始動。企業価値のさらなる向上のため「お客様との関係性(CRM)強化」「既存店の活性化」「新しい店舗スタイルの開発」「事業領域の拡大」を4つの重点戦略とし、デジタル・IT、物流、ブランディングにさらなる磨きをかける。

 あさひの快進撃は、アフターコロナも当面止まりそうもない。

シニア向け「アルエットL」(提供:あさひ)
パーツアクセサリーの売場(提供:あさひ)
自転車修理にもチカラを入れている(筆者撮影)

著者プロフィール

長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。


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