「そこに建築的、不動産的、ライフスタイル的に変化、次世代感を見ている」と話すのは4月に「小商い建築、まちを動かす!」(ユウブックス)を編著者の一人として上梓した建築家の西田司氏。
「最初に小商いを意識したのは、この本に編著者として一緒に関わった、以前は当社に所属していた神永侑子さんが19年に自分で小商いの場を作った時です。
見学に訪れると、オフィス、住宅、公民館などと役割が決められた従来の建築とは違い、使う人によって自由に変わるこれまでにない建築で、不動産としても希少。また、ライフスタイル的には次世代感があると感じました。
昭和生まれは仕事とプライベート、本業とそれ以外を分け、二項対立のように考える意識がありますが、どうやら、平成以降の人たちはそれがつながっており、その時々でスイッチングしているらしいと感じました」(西田氏)
オンとオフは切り離されたものではないのだ。実際、同書には同じ空間が平日には我が家のリビングであり、週末には本屋やカフェになるという事例が多く紹介されている。昭和の“他人を我が家に招き入れることが苦手な人”からすると非常に開放的。住居を開放する「住み開く」という言葉が普通に使われてもいる。
また、スペースが小さいという点も昭和の商いと大きく違う点だ。例えば、書籍の冒頭に紹介されている「欅の音テラス」(東京都練馬区)は、住宅街の中にある鉄骨造2階建てのアパート。
用途地域の問題から、住宅以外の商売に充てられるスペースは、建物全体で50平米までしか取れない。その面積を1階6戸に等分に割り振ると、1戸あたり8.3平米。5畳くらいの空間だが、誰からも不満は出ない。
「逆にあまり広かったらスペースを埋めるのが大変だろう」と西田氏。「皆さん、小さな空間であることを分かった上でやっています。店舗でそんなに小さくていいんだというのも驚きで、意識が変わりました」
昭和の時代の商売人の多くは店の広さを“イコール競争力”と考えていた。思い出すのは20年夏に改装のために一時閉鎖し、その後多くの店舗が廃業した渋谷の地下街、「しぶちか」のことだ。
戦後60余年に渡ってどこか猥雑な雰囲気を伝えていたしぶちかは、闇市の露店救済のために造られた店舗で、もっとも広い店舗でも7坪(約23平米)。平均で2坪(6.6平米)、狭いところでは1.9坪(6.27平米)。いくら立地が良くても、この面積では大型店には勝てないと廃業を決めた人たちはため息をついていた。
だがそれは、大量に作られた品を買ってきて売る商売の話。欅の音テラスの人たちはここでしか買えないものを売っている。さらに今ならインターネットで売る手もある。小さな空間には小さな空間なりの売り方があるのだ。そして、時にそれはモノではない。
「ここで売られているのはモノでありながらモノではないのかもしれません。この人の解説を聞いて、この人の選書で本を買う時、そこでは貨幣に加えてコミュニケーション、時間、信用その他の見えない価値が交換されているのではないか。売る人にとっては承認欲求も満たされているはずです」(西田氏)
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