さて、その観点で吉祥寺のある中央線沿線の各駅を見ると、駅ごとに男性性・女性性の強さには違いがある。明らかに男性性が強いのは高円寺。前述の住みたい街ランキングでも男性だけが選んでおり、女性好みのカフェや古着店などが増えてはいるものの、まだまだ大盛り自慢の飲食店のイメージが強いのだろう。
それに対して荻窪は女性だけが選んでおり、女性に受ける街であることが分かる。同様に西荻窪も駅前には煙がもうもうと上がる飲み屋街があるものの、アンティークの街、雑貨店、古本などのイメージからか、女性寄りで女性誌でも吉祥寺と並んで取り上げられていたりする。
ところが吉祥寺は男性に好まれる部分、女性に好まれる部分のいずれもがそろう。言ってみれば両性具有の街である。中央線沿線の各駅の場合、どこにも猥雑な飲み屋街があり、にぎやかな商店街があり、それぞれの街ごとに個性もあり、祭りやイベントなどもありとかなり共通する部分が多いのだが、吉祥寺にあって他の駅にないものがある。
その1つが公園。ご存じの通り、吉祥寺駅近くには広大な井の頭公園があり、ここが女性性に大きく寄与している。女性は公園、緑、自然、水辺など、美しいもの、癒されるものに関心が高い。実際に公園を頻繁に利用するかどうかは別として、公園が近くにあることは女性に対してはプラスに働くことが多いのだ。
また、他の街には少ない大型店があり、メディアで取り上げられることの多い店などが集まっていることもポイント。商店街、隠れ家的な店などもあった上での大型店と考えると、さまざまな買い物体験ができる街というわけである。こうした選択肢の多さは特に女性にはうれしい。これだけあれば良いではなく、あれもこれも欲しい、それもこっちも食べたいという気持ちを満たしてくれるからだ。
言葉を変えると、両性具有の街とはさまざまな要素がある街という言い方もできる。考えてみると住みたい街ランキング上位常連の横浜も港あり、公園あり、歴史ある建物あり、中華街あり、おしゃれな店に猥雑な路地、飲み屋街と多様な要素がそろう。近年人気上昇が話題になった大宮も同様。両性具有の街とは、男にも、女にも、それ以外の人にもうれしい要素がある、多様性の高い街ということである。
その点で面白いのは、かつてはサブカルの街として男性性の強かった中野が警察大学校跡地が中野セントラルパークとなり、タワーマンションが増加、住宅地としての認知が高まるにつれて男女双方から支持されるようになってきたということ。それまでになかった要素が加わることで街の魅力は高まる。その要素として公園や緑の存在は大きいと言えそうだ。
中川寛子(なかがわ ひろこ/東京情報堂代表)
住まいと街の解説者。(株)京情報堂代表取締役。路線価図で街歩き主宰。
40年近く不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくりその他まちをテーマにした取材、原稿が多い。
主な著書に「解決!空き家問題」「東京格差 浮かぶ街、沈む街」(ちくま新書)「空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる がもよんモデルの秘密」(学芸出版社)など。宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。
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