日本の百貨店はまた同じ道をたどるのか?:小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)
インバウンド消費によって支えられている日本の百貨店だが、この恩恵が未来永劫続く保証はない。客離れという本質的な問題にメスを入れ、大変革を遂げるのは今しかないのではなかろうか。
ショッピングモールが取って代わった
百貨店が小売の王者だった昭和の時代、百貨店の店内は家族連れの大衆顧客でごった返していた。自らの昔話で恐縮だが、子どものころ(40年ぐらい前)、東京都豊島区の下町住まいだった私は、週末には親に連れられて、池袋の百貨店の大食堂で外食し、屋上で遊びながら買い物が終わるのを待っていたことを憶えている。
ところが、今は屋上遊園地も大食堂もほぼ姿を消し、館内は高齢のご婦人の園と化している。富裕層、中高年にターゲットを絞り込んでしまった今の百貨店は、ファミリー層の取り込みを事実上放棄した(ファミリーに見える来店客も祖父母が孫のためにモノを買う「3世代消費」のための来店がほとんどと見た)。一方のファミリー層は消費の場をショッピングモールに移しており、ショッピングモールもマーケットの主役であり続けている。
JR川崎駅西口隣接の「ラゾーナ川崎プラザ」は国内有数のショッピングモールであり、施設全体での売り上げは年間760億円を超えていて、大手百貨店の基幹店に匹敵する規模である。いつ行っても幅広い年代の買物客でごった返しており、広い中庭では子どもたちが走り回り、ベビーカーを押しているファミリー層の姿もかなり多い。食料品、生活雑貨、アパレル、家電、書籍などほとんどの商品がそろっている上に、シネコンや充実したフードコートでゆったりと時間を過ごすことができる。かつての百貨店の機能を、今ではこうしたショッピングモールが担っている。
百貨店があきらめつつある大衆マーケットは、本当は十分に商売になるマーケットであり、ここを放棄したことが、百貨店の右肩下がりを構造的なものとした。特に若年層をあきらめたことは致命的と言える。中高年層どころか団塊世代の店となってしまった百貨店は、若年層の新規流入が激減し、世代交代が困難となってしまった。このため、百貨店は団塊世代が全員後期高齢者となる2025年には、いわゆる「2025年問題」の急激な需要減の直撃を受けることは避けられない。主力である今の中高年女性向け売り上げが激減するとしたら、インバウンドの増収効果が仮に現状維持できていたとしても、補うことは不可能であろう。
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