フィルムを2分割し、通常の35mmフィルムで2倍の撮影ができるハーフカメラ。老舗メーカー「ヤシカ」のハーフカメラである、「YASHIKA Half17」のジャンクを7000円で入手したところまでが前回の話(参照記事)。
さて、なにはなくともシャッターが降りなければ、カメラではない。まずはそちらのほうから手を付けることにした。まずは前の方から外していったが、シャッターまでは届かなかった。端に貼り付いているだけだとは思うが、一度ユニット全体を外して、裏側から分解して様子を見なければならない。
上下のカバーを外したところで、妙なことに気がついた。フィルムの回転の力をシャッターチャージとして伝えるための棒の先端が、どこにもつながっておらず、プラプラしている。シャッターチャージができない原因は、どうも先端のネジが外れてしまったことにあるようだ。
止めていたネジは見つからないが、とりあえず先へ進めることにした。革も全部外して、ようやくシャッターユニット全体を外すためのネジが現われる。量販型のカメラは、あとでメンテナンスすることをあまり想定していないので、分解は外装部品を全部外さないとできない場合が多い。
Half17は贅沢にも、ヘリコイド直進式※である。回転式ヘリコイドの場合は、いったんレンズを外すと取り付け時にフォーカス調整をしなければならないが、直進式は必要ない。レンズを外すのに躊躇(ちゅうちょ)はいらない。ユニット全体を外して裏返しにしたところで、ポロンとネジが1つ出てきた。これが先ほどの棒を止めていたネジのようだ。
ユニットは、シャッターを挟んで半分に分かれるようになっている。シャッターは薄いプラスチックの板なのだが、湿気や静電気などで貼り付いてしまっていることが多い。いったんはがして、ジッポオイルで表面の油などをよく洗浄したのち、潤滑剤として鉛筆の芯を削ったものをまぶしておく。
このシャッター、スペックではオートの場合1/30〜1/800秒となっているが、実際に中身を見てみると、それだけの速度を可変する仕組みはどう考えても入っていない。どのようにシャッターが動くかというと、まず1のL字型のパーツが2の弾み車をけり上げる。写真はけり上げたあとの状態である。
するとこの車の回転のトルクで、3のレバーが左に倒れてくる。4のパーツは露出計と連動しており、上下に動く。したがって3のレバーは、4の斜めに切り立った部分にぶつかる。どの辺にぶつかったか、レバーがどこまで倒れたかによって、シャッターの開くサイズが変わるという仕組みである。
つまりここには、シャッターのスピードを10倍近くも制御する仕組みはない。ただ露出として、“F1.7に固定した場合に1/60〜1/800秒相当になる”という意味だろうと思われる。昔はこういうあいまいな記述でも許されたのだろう。
続いて露出計の修理である。当時の露出計は、太陽電池の元祖とも言えるセレン素子からの発電を受け、メーターを振らせるというものだ。このメーターの針の部分を挟み込んで、どれぐらいの角度で挟めたかで、絞りの開け具合を決めている。ここまでの様子からも想像できるように、精度としてはかなり心もとないが、それでもちゃんと撮れるのだから立派なものである。
露出計を外すためには、いったんビューファインダーを外す必要がある。露出計の土台の足の部分を、ビューファインダーが踏みつけているような格好になっているからだ。
セレンの出力を計ったところ、一応電力は出ているようだ。だが針が振れないところを見ると、どうもメーター側が壊れているらしい。いったん露出計全体を外してルーペで観察したところ、メーターのコイルから出ている微小な線が取れてしまっているようだ。
なんとか元通りにハンダ付けしようと試みたが、髪の毛よりも細い導線をつなぐのは、筆者の技術では無理だった。さすがにメーターそのものの修理は難しい。メーター部分だけ他のものと代用できないか試みたが、セレンからの出力が小さすぎて、現代のメーターではなかなか動かない。またサイズも微妙に合わないので、露出計は諦めて、マニュアル動作のカメラとして使うことにした。
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。
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