「西友がWal-Mart傘下へ」というニュースが流れたのが2002年3月。外資系企業が日本市場を完全に理解したとき、ついに小売でも本当の実力勝負が始まる。果たして、この試合、日本に勝ち目はあるのか?
「西友がWal-Mart傘下へ」というニュースが流れたのが2002年3月。
バブル崩壊後、消費不況や規制緩和による新業態の進出で、従来型のスーパーマーケットはただでさえ経営基盤が脆弱化していた。西友も、かつてはセゾングループを引っ張っていたが、系列ノンバンクの不良債権処理で財務状態が悪化、先の見えない経営が続いていた。その西友に資本参加して、日本市場参入の第一歩を踏み出したのが米Wal-Martだった。
米Wal-Martが西友を介して日本に進出しようとした理由として、「日本文化の壁」があったと言われている。
2000年10月、千葉県幕張市に1号店をオープンした仏Carrefour。日本の小売構造を無視し、世界の他店舗と同じ方法を取った同社は、サプライヤー(製造業)に対して直取引を要求した。だが、日本のサプライヤーの多くは、安さの追求よりも、卸業者を利用した細かいサービスを活用した方が得策と考えていたため、店舗では欠品が発生するなど、なかなかうまくいかなかった。
また、「おフランス」の言葉からも分かるが、一般に日本人はフランスに高級なイメージを持っている。フランス系小売店の海外進出に高級感を求めて足を運んだ日本人は、Carrefourの低価格路線に失望した。これは、Wal-Martにとってはいいケーススタディとなり、西友というクッション役を探すにいたったとも言われている。
だが、日本進出に失敗している企業ばかりではない。現在、玩具最大手のトイザらスは、日本で大きな成功を収めた日本マクドナルドの手法に学んだという。
マクドナルドは既にすっかり日本の食文化に定着したが、もしマクドナルドが存在しなかったらどうだろう。日本の外食市場は今とは随分違う姿をしているのではないか。その影では、定食屋、ラーメン店など小さな店舗を含めて、多くの日本の外食店舗が姿を消していった。
こういった動きも影響して、外食産業にフランチャイズ路線が進み、どこに行っても同じ外食店を見させられる世知辛い日本の風景を作り出してしまった。ただ、これらの企業、経済効率のいい経営をしていることだけは事実として認識しなくてはならない。
つまり、外資系企業が日本市場を完全に理解したとき、ついに小売でも本当の実力勝負が始まる。果たして、この試合、日本に勝ち目はあるのか?
Wal-Martは2002年度売上高が29兆円。日本は最大のイオンがやっと3兆円。規模ではかなわない。だが、オペレーション、端的に言えばITの使いこなし方では、もっと歯が立たないのが現状だ。
なぜなら、Wal-Martは、ITを使っていかにビジネスを効率化していくかをとにかく考え抜いて今の地位に上りつめた企業。最近ではRFIDへの取り組み、かつてなら、データマイニングの事例の代名詞「オムツとビールの法則」を提唱したのも同社。オムツとビールの法則(顧客の購買履歴データを調べた結果、オムツとビールが同時に購入されることが多い傾向があるというもの。データマイニングの典型例として知られる)は、その真偽よりも、同社がいかにITよる経営効率化に力を入れているかを示す話として語られることも多い。
一方、日本の小売業の社長はというと、ITにはトンと興味のない人が多いと聞く。その中で、イオンは「グローバル10」で世界のトップ10入りを目指し、750億円とも言われるほどIT投資を増やして頑張っている。この金額は、経営者がITの重要性を本当に理解していなければ出てこない。ITと経営を分離したものとしてしか考えられない経営者では、日本の小売業者がWal-Martをはじめとした外資リテイラーを抑えて対等な勝負をしていくのは100%無理と断言してもいい。
どこに行ってもWal-Mart、時々、TescoやMetroもみかけるという風景。既に、マクドナルド、ウェンディーズ、サブウェイなど、ファーストフードの世界では慣れてしまったようなことが、近い将来スーパーマーケットや百貨店業界でも起きる可能性がある。
では、日本の小売業界はどうすればいいのか。ITの幾つかの観点から考えてみたい。
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