Mozillaの将来はどこへ? Mozilla Japanに聞くInterveiw

相次いで発見されるセキュリティホールなどへの懸念からInternet Explorerの代替を求める動きが強まっている。その有力候補となるMozillaの国内における普及・啓蒙の役割を担うMozilla Japanへインタビューを行った。

» 2004年09月22日 14時30分 公開
[聞き手:西尾泰三,ITmedia]

 Mozilla Foundationの国際アフィリエイトとして先月設立されたMozilla Japan。どのような活動を行うか、また、もじら組などに代表されるコミュニティとの関係などエンドユーザーにとって分かりにくい状態になっている部分も存在する。そこで、東京工科大学の学長で、Mozilla Japanの代表理事も務める相磯秀夫氏、理事を務める瀧田佐登子氏の両名にMozilla Japanとは何かについて話を聞いた。

相磯氏 東京工科大学の学長で、Mozilla Japanの代表理事も務める相磯秀夫氏。TRONで知られる坂村氏や慶應義塾大学の徳田氏も相磯氏の教え子とのこと

ITmedia Mozilla Japan誕生の経緯を教えてください。

瀧田 Mozilla Foundationは2003年7月、America Online(AOL)のNetscape部門再編に伴い、その商標や開発資金を譲り受けたMozilla Organizationが名称変更する形で設立されたNPOです。AOLからは、200万ドルの供与やハードウェア資材などリソースの提供を受けたほか、Mozillaに関わるブランド管理の権利を譲り受けています。

 Mozilla Japanは、日本国内におけるMozillaの普及促進を行う国際アフィリエイト、いわば支部のようなもので、今年2月に設立されたMozilla Europeに次いでの設立となります。

相磯 これからはオープンソースソフトウェア(OSS)の時代が来ることは疑いようもないですが、実際に普及するための要因としては、ミドルウェアの充実などが必要です。オープンソースソフトウェアの発展のために協調して何かやりたい、というのが東京工科大学の姿勢でした。

 また、最近はアジア圏でもオープンソースへの期待が高まっています。また、システムとしてLinuxを採用する向きも増えているなど、大学でもオープンソースの方向に動いているといえます。しかし、企業でも、そして大学でも技術者の育成という視点が意外に抜け落ちがちです。東京工科大学では、その部分で協力できると思います。

ITmedia 具体的にはどういった活動をするのですか?

瀧田 ブラウザとしてだけではなく、Mozillaにかかわる技術の発展とMozillaの普及・啓蒙を行います。具体的には、企業や行政機関などを対象に各種サービス・サポートを提供するほか、ユーザーコミュニティとの協力を推進していきます。コミュニティではできない部分、たとえば資格関連などの分野もカバーできればと思います。

ITmedia リリースでは日本発の技術の開発・研究の展開も視野に入れているとありましたが、これは何を指すのですか?

瀧田 米国では、ノキアがMozilla Foundationに資金を提供し、携帯端末用のブラウザ開発を進めるなどの動きもありますが(関連記事参照)、さまざまな企業に話を聞くと、Mozillaを日本のデバイスに載せるのはサイズ的に無理があるようです。このため、レンダリングエンジンである「Gecko」をもっとコンパクトにするなどの部分を、日本発で開発していくことなどを視野に入れています。

 また、一般的にMozillaという単語から連想されるのはWebブラウザですが、ここ最近になって企業が注目し始めたリッチクライアントの動きの中では、Mozillaで採用しているXMLベースのクロスプラットホーム・ユーザーインタフェース言語であるXUL(ズール)も脚光を浴びてきています。

相磯 日本発という意味であれば、組み込み型の応用分野といえるTRONのアーキテクチャにMozilla系が実装される可能性もあるかもしれません。トロン協会との話し合いも出てくるでしょうね。

ITmedia 技術者の育成などは、東京工科大学にあるLinuxオープンソースソフトウェアセンターなどで行われるそうですが、ここでは具体的に何をするのですか?

相磯 Linuxオープンソースソフトウェアセンターは、文部科学省の支援で今年の7月に設立された、LinuxをはじめとするOSSの専門施設で、研究開発と人材育成を軸に活動します。大学内外の人材を国際的に集約して研究、開発を行う予定です。ここがMozilla Japanの研究、開発を行う拠点のひとつとなるでしょう。研究開発の成果は産学官の連携によるひとつの形としてビジネスに結び付けられれば望ましいと思います。

テンアートニ参加の経緯

ITmedia 理事の顔ぶれを見ると、日本OSS推進フォーラムの顧問もされている慶應義塾大学の徳田英幸氏のほか、テンアートニの喜多伸夫氏、江後田基広氏などの名前も見られます。同社が進めるLinuxをはじめとしたオープンソース関連の事業を進めるにあたって、推奨ブラウザとしてのMozillaの位置づけを確固たるものにするための気もしますが、テンアートニが参加した経緯を教えてください。

瀧田 江後田氏はもじら組に初期から参加しており、また、Netscape CommunicatorのLinux版の日本語化をされていました。私もNetscapeバージョン3.0の国際化、日本語化の開発を担当していたこともあり、縁があったのです。

 Mozilla Foundationが設立されたころ、日本でももっとMozillaを広めていきたいと相談があり、Mozilla Japan設立の話を進めてきたのですが、そのとき江後田氏が在籍していたのがたまたまテンアートニだったという話です。このため、テンアートニというよりは個人でのつながりがあったためといえるかもしれません。

 とはいえ、テンアートニは日本においてオープンソースビジネスの先駆者であり、そのあたりでも意気投合した部分があり、Mozilla Japanの設立にあたってはテンアートニから基金への出資として1000万円の提供を受けています。

ITmedia Mozilla Japanの活動に必要な資金はどのように調達するつもりですか?

相磯 組織形態が有限責任中間法人のため、利潤を求める必要はありませんが、活動のための資金は、プロジェクトベースでさまざまな企業へプランニングを行ったり、ブラウザそしてメーラーのサポートビジネスも視野に入れています。

 最近では、社内のシステムをLinuxベースにしたいという企業も増えてきていますが、IEでしか動かないようなサイトやアプリケーションの移行で問題となることもあるようです。こうしたことを減らすため、Webの標準化の啓蒙も必要だと思います。これは、Internet ExplorerやOPERAを使わないでMozillaを使ってください、というのではなく、Internet ExplorerでもOPERAでもMozillaでも正しく動作させるためにはこういったプログラミング方法があります、といった啓蒙活動です。

もじら組との関係は?

ITmedia 日本のMozillaサポーターコミュニティであるもじら組との関係はどのようになりますか?

瀧田 混乱されている方もおられるようですが、もじら組が傘下に入ったのではなく、もじら組のプロジェクトとして活動してきた和訳プロジェクトやJLPプロジェクトがMozilla Japanに入ったという形になります。和訳プロジェクトは、Mozilla Japanの翻訳部門に、JLPプロジェクトはMozilla Japanのローカライズセンターという部門として活動します。

 これらプロジェクトのこれまでの成果はすばらしいものでした。しかし今後、Mozilla Foundationの唱えるポリシーが厳格に適用された場合、Mozilla Japanから提供されるビルドのみがMozilla、FireFox、Thunderbirdといった名称を公式に使えるものとなります。任意の非組織的なグループであるもじら組では商標ポリシー上コミュニティリリースという位置づけとなります。。また、コミュニティであるもじら組では、出したものに対する責任を負うことは難しく、ユーザーは少なからず制限(例えばパッチの適用は自己責任など)があったと思います。この部分がMozilla Japanに参加する事で、品質を保証し、公式なものとして存在することになるわけです。

 なお、もじら組とは協力関係にあるといえます。もじら組に対してMozilla Japanが支援できることがあれば、それは協力を惜しみません。

相磯 Mozilla Foundationの意向やポリシーとかい離しないよう注意する必要はありますが、Mozilla Japanとしてはコミュニティを尊重することは大変重要だと考えています。できるだけその意思を尊重した形で進めていければと思います。

 Mozilla Japanのような公式アフリエイトに参加することでどういったメリットがあるかを考えたときに、その成果物を世に広く使ってもらうための場となるという点でMozilla Japanは貢献できるのではないでしょうか。

ITmedia 向こう半年から1年くらいのスパンで考えたとき、Mozilla Japanのミッションは何ですか?

瀧田 活動の柱はMozillaの普及・啓蒙ですが、そのほかにも、これまではできていなかったプロダクトの品質管理に関わる部分、例えば、プロダクトの日本語化の前に、問題点があればそれを吸収し、Mozilla Foundationに反映してもらうような作業をしたいと思います。

 また、国際化の部分に関してはMozilla Foundationに任しておけないような部分も少なからずあると思います。ローカライゼーションの複雑さについては、例えばアジア圏に関してはダブルバイトに精通していないと難しい部分もありますので、このあたりは大学の研究室などとも連携して進めていければと思います。バグについても、Mozilla Japanを通じてMozilla Foundationにフィードバックされやすくなるでしょう。

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