テイラー氏、MSの対Linux戦略を語る(1)Interview

Microsoftの対Linux戦略を担うマーティン・テイラー氏が現職に就いてから1年が経とうとしている。同氏の正式な役職名はプラットフォーム戦略ゼネラルマネジャー。Computerworldでは同氏に話を聞いた。

» 2004年09月22日 12時24分 公開
[IDG Japan]
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 マーティン・テイラー氏は先ごろ、Microsoftの対Linux戦略の責任者という立場に就任して1周年を迎えた。同氏の正式な役職名はプラットフォーム戦略ゼネラルマネジャー。Computerworldでは同氏に取材し、この職務の1年目について話を聞いた。今回はそのインタビューの前半をお届けする。

―― この1年間でどんなことを学びましたか?

テイラー われわれは1年前に極めて直接的な戦略を確立しました。感情的な表現を抑え、事実を中心としてソリューションを現実的に分析するというアプローチを採用しようと考えたのです。

 私は当初、ユーザーが実際にWindowsとLinuxを比較し、「LinuxのほうがTCO(総合保有コスト)に優れているじゃないか」と言うのではないかと思っていました。ところが実際には、そういうことは少なかったのです。ユーザーが認識したのは、「UNIXやRISCを使うのをやめればコストを節約できるじゃないか」ということでした。

 つまり問題は、「Linuxを採用すればいいのか、Windowsを採用すればいいのか?」ということなのです。比較を始めたのはそういうわけです。ユーザーが「LinuxのほうがTCOに優れている」と言うとき、彼らは必ずしもWindowsよりも優れていると言っているわけではありません。UNIXよりも優れていると言っているのです。

―― ほかにも驚いたことはありますか?

テイラー 少し意外だったのは、ユーザーとの会話において彼らが何を要求するのかを予測しやすくなったことです。この1年間でクローズアップされた問題の1つに、(特許や著作権訴訟に対する)免責という問題があります。ますます多くのユーザーが、免責に関してHP(Hewlett-Packard)やIBM、Red Hat、Novellと比較した場合、Microsoftは何をしてくれるのか」と質問するようになりました。この問題がユーザーの決定に大きな比重を占めるようになってきたのです。私のほうからこの問題を切り出すよりも、ユーザーがそれについて質問するほうが多いのです。

 それで私はこう言うことにしたのです。「われわれは当社の技術をしっかりと支えている。これについては、多くの点でLinuxよりも信頼されるようにせねばならないと考えている」と。実際、ユーザーが迷っているときには、このような説得が決め手になることもあります。

 今年私を驚かせたもう1つの出来事は、Linuxの商用化です。これで、商業上の用語を使って話をしやすくなりました。無償で製品を提供しているベンダーは、「何をしても許される」というカードを手に入れることになります。ユーザーからすれば、「どうせタダで手に入れたものだから、セキュリティの不備は我慢しよう。自分たちで直せばいいんだ。リグレッションテスト機能もないの? これも自分たちで何とかしよう」ということになるからです。しかしユーザーがお金を払うようになれば、当然、要求も高くなります。

―― Novellをどう見ていますか?

テイラー Novellは過渡期を迎えています。彼らはプラットフォームに中立的でありたいという気持ちも少しあるようです。彼らのビジネスの柱はNetWareではないからです。ZenWorksとその上で動作するソフトウェアが彼らのビジネスであり、Windows上、Linux上そしてNetWare上でそれをやりたいと考えているのです。しかしいずれ、彼らは特定のプラットフォームにコミットし、それをさらに改良しなければならないでしょう。

 私は7月にトロントで、全世界から集まったNovellの大手リセラー12社の担当者に会い、約4時間にわたって話を聞きました。市場の動向を把握する必要があるからです。NovellはSUSE Linuxで勝負に出ようと必死になっているようです。しかし彼らの現在の位置から、SUSEを事業の基盤に据えるというゴールに到達するためのロードマップをきちんと示していません。

 技術的な視点で見た場合、個別製品のスタック(製品群)でMicrosoftに対抗できるチャンスが最も大きい企業はNovellだとわれわれは考えています。このため、彼らはRed Hatを追い抜き、最も人気の高いLinuxディストリビューターになると思います。ただしNovellが態勢を整えるまでの間、Linuxの新規導入ではRed Hatが知名度において優位を維持するでしょう。

―― 長期的には、NovellはLinux企業としてMicrosoftの最大の競争相手になると考えているのですか?

テイラー もちろんです。なぜなら彼らは、カーネルからアプリケーションレイヤーおよびその上で動作するソフトウェアに至る個々のスタックにおいて、最も優れた製品を持っているからです。

 彼らの現在の課題は、Red Hatとの差別化を図ることです。これはつまり、カスタマイズしたディストリビューションを提供しなければならないことを意味します。それによってLinuxでないLinuxが生まれる可能性もありますが、NovellのSUSE LinuxはRed Hat LinuxやDebian Linux、Mandrakeなどとは異なります。こういった状況は、各社のディストリビューションにおけるカーネルの扱いにおいても多少見られるようになってきました。

―― Linuxをめぐる勢力地図の中で、IBMはどこに位置すると見ていますか?

テイラー IBMは今後も、Linux環境の複雑さをサービスビジネスのチャンスとして利用するでしょう。「当社はグローバルなサービス事業を展開しているので、さまざまなものをつなぎ合わせて複雑さを覆い隠すというソリューションを顧客に提供できる」というわけです。また彼らは今後も、自社のハードウェアプラットフォームを活用する手段を追求するでしょう。

 彼らにとっての厳しい課題は、商用アプリケーションセットを各種のLinuxディストリビューションに適合させることです。Red Hatが勢力を拡大し、またNovellも勢力拡大を続ける一方で、IBMはこれらのベンダーとの競争を強いられるようになります。IBMはカーネルやディストリビューションに対する影響力をあまり持っていないからです。

 つまり、Red Hatは自社のディストリビューションに手を加えることができるのに対して、IBMはそれに口をはさむことができないのです。IBMはNovellのSUSE事業に出資していますが、Novellとの関係でも、多かれ少なかれ同じことが言えます。いずれIBMにとっては、アプリケーションビジネスをLinuxに適合させるのが難しくなるでしょう。

 ユーザーは商用ディストリビューションを求めています。このため、IBMは自社のアプリケーションスタックをディストリビューション内で効率的に動作させるために、Red HatとNovellに一層依存するようになるでしょう。

 IBMのロードマップははっきり見えません。ある意味では、IBMにもLinux推進に向けた長期的ロードマップがはっきり見えていないのではないかと思います。HPがLinuxユーザーの保護対策を実施し、Red HatとNovellも部分的に実施したのにもかかわらず、IBMがユーザー保護に踏み切らなかった理由もそのあたりにあるのかもしれません。ユーザー保護の問題では実際、彼らは傍観者的な態度を決め込み、顧客をほったらかしにしているのです。

―― MicrosoftはLinuxに対する「Get the Facts」(事実を知ろう)キャンペーンで、調査会社にレポートの作成を依頼しました。これからも続けるのですか?

テイラー 「Aという顧客が『このデータがあれば、MicrosoftとLinuxを比較する上で参考になる』と言っている」といった話を耳にすれば、私は調査会社に電話をかけ、「この2カ月で4〜5社の顧客と話をしたが、彼らは皆、XとYの比較について関心を持っていた。ユーザーはこの点を知りたがっているようだ。ちょっと調べてもらえないか?」と言うのです。これに対して、彼らが「ああ、その話はわれわれも聞いている。調査してみるつもりだ」と答えることもあれば、「その問題には特に関心がないが、気になるのだったら当社の手法を用いて検証してみよう。ただし費用はそちらで出してもらいたい。サンプルを集めたり、ユーザーに話を聞いたりするのにお金がかかるからだ」といった返事が返ってくることもあります。

 いずれにせよ、この作業は今後も仕事として続けていきます。明らかにする必要がある事実があり、調査会社がそれを重要だと考えていれば、彼らが自ら調査を実施してほしいと思います。彼らが重要だと考えない場合には、こちらから委託する形になるでしょう。

―― 今後のキャンペーンの展開を聞かせてください。

テイラー これからも顧客が重要だと考えるシナリオが中心となるでしょう。具体的には、TCO、セキュリティ、信頼性といった問題です。



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