また放置自転車対策に使おうともしている。三菱マテリアルはICタグへの書き込み兼ラベル印刷機を84 万円台にした……などなど。ニーズに合わせて機能を絞り込んだところは、おもしろい動きを見せている。だが、「大根タグ」と同じくらい悲惨なアイデアにこだわっているところもある。
ICタグを本に付けるという出版・書店業界だ。業界の狙いは、在庫確認や受発注の省力化だというが、ホンネは万引き防止と中古本流通ルートへの横流し防止だ。この中途半端で欲張りな姿勢が可能性をつぶしている。素人なりに考えて、まずタグおよび本の破損が心配だ。薄い本が重なれば電波は干渉する。カーボン成分の入ったインクで印刷するのもやばそうだ。
本気で盗む輩(やから)は、ICタグのついたページごと破るだろうし、読み取りにくいアルミ箔・バッグに入れて持ち出すかもしれない。
あれこれ考えると、ICタグ付き本は「アイデア倒れになる」とは、だれも書かない。「懸案の経営課題は別の解決方法で考えた方が良い」とも書かない。ひとくちに「トレーサビリティ」というけれど話を「トレーサビリティ」に戻そう。トレーサビリティは「追跡識別機能」とでも訳せばいいだろうが、この言葉だけでは意味するところがブレてしまい、少なくとも次の4 通りの受け止め方になる。
どれを実現したいのかによって使うべきRFIDシステムは全く違う。米Wal-Martは、ライトワンス(1 回書き換え可能)タイプのICタグ(クラス1)を標準にするらしいが、書き込みをどこの段階で、何のためにやるかはよくわからない。
上の3の機能だけなら昔からある。書き込みの必要などない。ただ、アクティブ型ICタグを使ってトレース情報から価値を生ませる使い方はある。商品を買わないまでも手に取る頻度を見るような、マーケティング用途はそのひとつだろう。
4のレベルでリサイクルを考えている企業なら、廃棄可能なバイオプラスチック素材のデバイスを欲しがるだろう。アフターケアなら、ユーザー側に置くハンディなリーダ/ライタが必要になる。(図1)
図1 さまざまなトレーサビリティの概念
「良く考えてみたらRFID なんていらない」という場合もある。例えば、従来のバーコードでは情報不足というだけなら、デンソーの関連会社が開発した二次元バーコードで十分に間にあう。携帯電話のカメラがスキャナとして使えて、1800 字以上の漢字情報が見事に再現できることは試してみればわかる。
ITジャーナリズムの側に、こういう話を聞き分ける姿勢(能力?)がない。何でもかんでも「トレーサビリティが実現する」、それもRFID だけが実現できるかのように書いてしまう。これでは情報として価値がない。論議もできない。
日本のRFID ベンダーが、使用する無線規格や情報のコードを付けて「ダブル・スタンダード」でやろうとしているのもおかしな話だ。見識がないから「うちは、こういう規格を採用して行く」と言えない。ダブル・スタンダードとは、東京大学教授の坂村健氏が率いる「ユビキタスID センター」と、慶應義塾大学の村井純氏が率いる「EPCグローバル・ジャパン」(元オートID センター)のことである。
この両方に加盟し、ライセンスを使うという態度をとっている。だが、本来これは両方を見比べて、どっちにつくかという問題だったろうか?
ユビキタスID センターは、「モノとモノとのコミュニケーション」を成立させる仕組みであり、EPCグローバルは、「モノとインターネット上の情報を結びつける」仕組みである。棲み分けて補完すれば良いことである。
目下、確立に向けて進んでいる技術および標準化は後者なのだから、EPC グローバルの動向だけを注視すれば良いはずなのだ。(図2)
図2.2つの規格は対立するものではない
なぜ、IT ジャーナリズムは両者を並立して語り、あまつさえ対立的な図式で見ようとするのか、また、ベンダーはその風向きをうかがうような態度を取るのか、よくわからない。どうもユビキタス事業とRFID 事業をセットで扱いたいという政策的・マネジメント的な配慮からのようだ。
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