第4回 法規制上避けられない大容量データの保管を支えるILMバックアップ、基礎の基礎を知る(1/2 ページ)

デジタルデータを長期間、真正性を確保しながら保管することは、単にシステム運用をスムーズに行うためだけでなく、企業統治上の要請ともなっている。それを支援するのがILMだ。

» 2004年10月12日 20時24分 公開
[伊勢雅英,ITmedia]

e-文書法でいっそう重要になるデータの長期保管

 これまでは急増するデータをいかに効率よく保管するかがエンタープライズストレージの重要なテーマだったわけだが、今後はこれらのデータをいかに長期的かつ安全に保管するかが重要になってくる。

 既に米国では、Sarbanes-Oxley法(米企業改革法)などのさまざまな規制が次々と生まれてきた。特に金融サービス業界に対しては、SECにより電子メールの長期保存義務が課せられている。また最近では、裁判の証拠物件としてデジタルデータが利用されるケースも見受けられる。この結果、多くの企業は、自社のあらゆるデジタルデータを長期保管せざるをえない状況に立たされている。

 日本でも同様に、データの長期保管を求める動きが見え始めている。そのひとつが「e-文書法」(参考:PDFファイル)の施行である。

 e-文書法とは、これまで紙による保存が義務づけられていた財務関係書類、税務関係書類、帳票などを、文書、帳票の内容、性格に応じた真実性および可視性などを確保しつつ、原則としてこれらの文書、帳票の電子保存が可能となるようにすることを法制化したものだ。政府は、e-文書法の法案を10月の臨時国会に提出する方針を明らかにしており、2005年4月の施行を目指している。これにより、日本の企業であっても、米国と同じ水準でデジタルデータを長期保管できるストレージシステムを構築しなければならなくなる。

ILMが支援する大容量データの効率的な保管

 e-文書法が施行されれば、紙による保存負担は減るものの、その一方でデジタルデータが急増することは想像に難くない。現在、ストレージベンダの多くは、データの急増に対する画期的なソリューションとしてILM(Information Lifecycle Management)を推進している。

 データは、生成されてから消去されるまでの時間の経過に応じて、そのアクセス頻度や価値が変化していく。つまり、データは一連のライフサイクルを持っている。通常はデータ作成後の日数が経過するにつれてアクセス頻度も落ちていくため、これに合わせてデータの格納庫(ストレージ機器)を段階的に変えていくのがILMの流儀だ。

 日本ストレージ・テクノロジー パートナー営業本部 セールスサポートグループ ストレージコンサルタントの山崎隆文氏は、同社のILMの考え方を次のように説明する。

山崎氏 日本ストレージ・テクノロジーでストレージコンサルタントを務める山崎隆文氏

 「StorageTekでは、データ作成後の経過時間とデータ価値によってデータの保管場所を4種類に分けています。生成されて間もないデータは『オンライン』、ある程度日数が過ぎたら『インライン』、アクセス頻度が極端に落ちたら『ニアライン』、もはや使われなくなったデータは『アーカイブ』と呼ばれるストレージに保管します。それぞれの保管場所に最適な製品は、オンラインが高いデータ転送性能と信頼性を持つVシリーズ、Dシリーズ、インラインが安価ながら大容量のBシリーズ、ニアラインとアーカイブがテープライブラリのLシリーズやPowderHornとなります」(山崎氏)。

図1 図1●StorageTekが提唱するILM。データ作成後の経過時間とデータ価値に基づいてデータの保管場所を4種類に分けている

 従来は、運用データを高速なディスク装置に格納し、そのバックアップ先としてテープライブラリを選択するD2T(Disk to Tape)の形態が一般的だった。しかし、最近では急増するデータを高速にバックアップ/リストアしたいという要望が高まっており、バックアップの過程でもディスク装置を併用するD2D2T(Disk to Disk to Tape)の形態が増えてきている。そして、このD2D2T環境でメインディスク装置とテープ装置間を橋渡しする新たなディスク装置(セカンダリディスク)として、ATA HDDを内蔵した安価なディスクサブシステムが注目を浴びている。

図2 図2●D2TとD2D、D2D2Tの違い

 StorageTekは、こうしたリーズナブルなディスクサブシステムとしてBシリーズを発売しているが、ゆくゆくは「ILMのトータルコストを抑えるために、ILMのディスク領域を1台の筐体で網羅できる製品、すなわちFibre Channel HDDとATA HDDを混載したディスクサブシステムを発売したい(山崎氏)」という。

規制準拠を視野に入れたILMの構築

 従来のILMは、最終的にデータをテープに落とし込めればそれで十分だった。だがこれからは同時に、データを長期間にわたって、安全に保管できることが求められるようになる。テープに保管されたデータは、どの企業にとっても自社の大事な財産であり、これを失うことは企業の破綻をも招きかねないからだ。

 しかも冒頭で述べたとおり、法規制による長期保管の義務も発生している。既に金融や医療、製薬などある特定の業種では、電子メールや金融取引情報、患者の医療データなど、法的な要件や規制準拠によってデータを長期保管する義務が課せられている。日本でも、e-文書法の施行がデータの長期保管を力強く促すことになるだろう。したがってこれからのILMは、自社の財産を守り抜く堅固な体制、そして国内外の法規制への準拠を念頭に置いた形で設計、構築していく必要がある。

 このような要件を満たすには、まずデータの真実性(完全性)の確保が不可欠だ。そしてデータに真実性を与えるには、データが改ざんされていないことを証明できなければならない。

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