なぜ進まない? 官公庁のOSS導入――Open Source Way 2004にてOpen Source Way 2004レポート

「ボタンの掛け違えがあった」。総務省の高村氏は省庁でOSSの導入が進まない理由の一つとしてこの例えを用い、負のフィードバックに苦しんでいる省庁の今を明らかにした。

» 2004年12月01日 00時25分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 「ボタンの掛け違えがあった」。省庁でオープンソースソフトウェア(OSS)の導入が進まない理由の一つとしてこのような例えを用いるのは、総務省情報通信政策局情報通信政策課情報セキュリティ対策室課長補佐の高村信氏。パシフィコ横浜で11月30日から2日間にわたって行われる「Open Source Way 2004」での一コマだ。

歯にきぬ着せず分かりやすく省庁の今を話す高村氏

 高村氏は省庁でOSSの導入が進まない理由を語る前に、省庁で使われている情報システムを分類する。それによると、職員が使う「一般業務系」、許認可業務など特定業務に用いる「専用業務系」、情報公開や電子申請などに用いる「公開系」の3つに大別できるという。そして、現状として、クライアントPCはWindows XP(SP2はあてていないという)、メールサーバはExchange Server、データベースはほぼOracleといった具合に商用で固めており、かろうじてWebサーバの一部がApacheであるという。

なぜ中央政府でOSSが普及しないのか

 高村氏は一部のシステム担当者にヒアリングを行った結果、中央政府でOSSが普及しない原因を「OSSが注目され始めたころのボタンの掛け違え」、「既存システムからのソフトランディングが保証されていない」、「移行コストへのインセンティブがない」の3つに集約されるのではないかと話す。

 政府におけるOSS利用が政策課題として注目され始めた2002年ごろを振り返ってみると、国産ベンダーが強いレガシーシステムから外国企業が強いオープンシステムへ移行するという流れがあった。この流れは外国企業への依存度が増してしまうため、ナショナリズム的に警戒感を持ったまま進んでいたという経緯がある。つまり、情報システムのあるべき姿を検討することなく、議論が進んでいた部分があるのだ。

「不幸にもその流れの中にOSSも入ってしまい、あえてOSSに手を出すことはなかった」(高村氏)

 また、総務省が2003年6月から2004年4月まで行っていた「セキュアOSに関する調査研究会」も結局はカタログスペックでの議論に終始し、「どのOSが優れているか」という結論に至らなかっただけでなく、OSSなアプリケーションソフトの利用については、議論にすら発展しなかったという目を覆いたくなる状況であった。こちらの経緯についてはこちらの記事が詳しい。

「総務省としては、銘柄指定で調達するのは望ましくない、求められている機能要件を満たすものを調達するのが望ましい、との文言を含めることまではできた。しかし、ではそれに必要なガイドラインの策定にまで踏み込めなかったことは悲劇」(高村氏)

 つまり、ボタンの掛け違えとは、OSSを導入しようという議論が導入側の要求ニーズからスタートしていないことと、導入サイドに立った議論も「セキュリティ向上」を大義名分として掲げたため、ユーザーニーズを掘り起こすには至らなかったことであるといえる。

 ソフトランディングの部分は、特に専用業務系で用いられる専用アプリケーションの開発コストに大きな問題があるようだ。DB周りを見ても、DBソフトの能力やその運用ノウハウの蓄積を考えると移行には難色を示さざるを得ない。また、一般業務系についても、書面のレイアウト自体に意味を持たせることが多い官公庁の書類を扱うにあたっては、Wordや一太郎形式の完全な互換性が求められるという。

 移行コストへのインセンティブがないのも大きな問題だ。動作しているシステムをわざわざ更改する必要性の有無や、更改期であっても、職員に対する教育コストが発生するものをわざわざ導入するのかといった声は依然として多い。

「郵政省時代にOS/2からWindows NTへ移行したことがある。そのときは教育コストを考えても移行する方がコストが絶対的に安かったとはいえ、その移行は大変面倒なものだった。また、予算の申請時に財務省にはいろいろと言われる。そこまでしてやる意欲がわかないというのも事実」(高村氏)

求められる「強いニーズ」

 運用ノウハウへの不安、アプリケーションの不足といった事態がユーザーニーズを喚起せず、それ故に更新への不安が生じる。更新への不安は投資の抑制へとつながり、結果的にOSSの導入が進まないのが省庁の現状であると高村氏は結論づける。

 そして、それを改善するのは「強いニーズ」の創出であるという高村氏は、そのニーズが「情報セキュリティ」、「多様性の確保」、「TCOの削減」、「魅力的なアプリケーションの出現」あたりにあるのではないかと予想している。

 政府の情報セキュリティの確保は大きな課題である。ここでは「よりセキュアである」という証明があれば、それは極めて強力な導入インセンティブとなる。「多くの開発者の目にさらされているから安全、とはいえない。その中にどれだけ鋭いまなざしを向ける人がいるかが重要」と話す高村氏は現在、OSの評価を実施するための予算請求を実施しているという。

 また、電子政府の実現により懸念される「止まらないシステム」に対するリスクヘッジとして、同様のサービスを複数の異なる方式で提供可能化することで可用性の向上を図る必要性を述べる。現在省庁ではそのサーバがダウンしてしまうと代替が効かず、業務が停止しかねないシステムが多く存在するという。そこで、ハードランディングではなく、「次期システムのプロトタイプ」という位置づけを与えながらの導入手法を取ることを提言している。こうした提言は現在、政府の情報システムの安全基準にバックアップシステムの必要性を盛り込む方向で議論が進んでいるという。

 そのほか、「役所」以外では用がないようなアプリケーションでも、その需要を説く。例えば同氏であれば、「予算請求書のような変な書式を持つ帳票の作成を容易にしてくれるソフトウェアがあるのなら欲しい」と話すように、政府調達の市場はまだまだ未開拓であることを述べた。

「OSSを使いたいけど作れない人・企業に対して販売またはサポートを行うというビジネスモデルは成立すると思う。一点突破すれば一気に波及する可能性を秘めた省庁へのOSS普及を期待したい」(高村氏)

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