草の根的に広がるフランスのオープンソース欧州オープンソース動向第3回

フランスでは政治家や政府関係者にOSS支持者、さらにはNPO的にOSSを支援する団体が多く存在する。このOSS人気の要因として、コストと品質のバランス、対米(対Microsoft)感情といったものが挙げられそうだ。今回は、フランスに見られるOSSの動きを見てみよう。

» 2004年12月09日 14時33分 公開
[末岡洋子,ITmedia]

有志の強い下支え

 JDSやMandrakelinuxにもバンドルされており、無償でもダウンロードできるオフィスアプリケーション「OpenOffice.org」(OOo)は、一般ユーザーをはじめ、フランスの学校など教育機関や公共機関でよく使われている。仏のOpenOffice.orgの広報担当者、ソフィー・ゴティエ氏によると、学校を中心に公共機関で導入が進んでいるとのこと。例えば、ゴティエ氏に教えてもらった仏語圏のオープンソースオフィスソフトウェアの情報交換サイトを見ると、学校のIT指導教官や市のIT担当者による書き込みが並んでいる。

 ゴティエ氏は、「コスト、セキュリティ、安定性、非依存性、相互運用性などが導入の動機となっているようだ」と語る。出版会社O'ReillyのOSSに関するレポートでは、欧州と米国を比較して、「欧州各国は米国に比べると公共機関の予算が低く、担当者は少ない予算を切り盛りしてIT化を促進している」とまとめているが、bureautiquelibre.orgにある書き込みを見ても、コスト削減が大きな動因になっていることがわかる。

 フランスにはこのサイトのようにNPO的にOSSを支援する団体が無数に存在する。学校向けにディストリビューションを作成したedulinux.orgなどもその一つで、セミナーやワークショップを開催するなどしてオフラインでも情報交換を行っている。また、論議好きな国民性からか、WiFi促進団体など有志が集まって結成する技術コミュニティが多く存在するが、このような団体に参加する人の多くはOSS支援者でもある。このようなところから草の根的にOSSが広まっているようだ。この国最大のLinuxの年次イベント、「SolutionLinux」に行くと、このような団体がRed HatやIBM、Novellなどの後ろで、狭い区画にひしめき合うようにしてブースを出している。その様子は宗教的な雰囲気さえかもし出している。

反米感情?

 中でも、フランスで早くからOSSの普及に努めてきた有志団体がAPRIL(Association Pour la Promotion et la Recherche en Informatique Libre)だ。ボランティアベースでオープンソースに関する情報交換やサポートなどの活動を行っていた10名あまりのエンジニアや学生が集まり1998年に結成した同団体は、オープンソース(フリーソフトウェア)とは何かを伝えることが活動内容。フリーソフトウェア運動の中心的存在であるリチャード・ストールマン氏を定期的に招いて講演会を開催するなどしている。

APRILの講演後、観客から質問を受けるリチャード・ストールマン氏

 APRILの共同設立者でパリテレコム大学に籍を置くオリビエ・ベルジェ氏は、自分たちの活動を、最近目に見えて高まっているOSSの盛り上がりに関連して、「活動を開始して8年目。やっとフリーソフトウェアとは何かの基本的な知識を啓蒙できた」と評価する。セミナーを開いても、テーマや参加者からの質問が法的なことや保守サポートに関することなど、具体的になってきたという。

ベルジェ氏

 ベルジェ氏は、「フランスに限って」と前置きしながら、OSS人気の要因として、コストと品質のバランス、対米(対Microsoft)感情という2点を挙げる。コストと品質のバランスとは、自分たちが支払った価格に対する中身を自分たちが管理できるというメリットのことで、「ブラックホールがなくなる」(ベルジェ氏、サン・マイクロシステムズ英国支社のバーリントン氏)など、取材中多くの人が挙げたOSSの利点だ。

 イラク戦争でさらに高まった感のある2点目の感情面に絡めて、ベルジェ氏は「市場が決められない要因」としてある分析を披露してくれた。それによると、フランスの工科学生の間でカリスマ的人気を持つある大学教授が数年前、Microsoftのビジネスを批判した本を書いた。その教授の影響を受けたエリートエンジニア層が現在、政府や企業のIT部門の管理層に職を得ており、先頭に立ってOSSを採用しているのだという。

 ベルジェ氏の指摘する反米感情からだろうか、フランスの特徴として、政治家や政府関係者にOSS支持者が多い点がある(初回のOvumのアナリストはこれを“トップダウン”と形容している)。国内電子化プロジェクトを推進する電子政府推進庁のディレクター、ジャック・サレ氏は今年2月、政府利用のPCについて、「現在99%が米西海岸、95%がその北部の企業のものだ」と現状を述べ、「競争を復活させ、1社への依存を防ぐ必要がある」とOSS支持を公言している。

 OSSに対する仏政府の動向として特筆すべきは、先日発表された仏版GPLともいえるCeCILL(策定に関わった3つの研究所の頭文字とフリーソフトウェアを意味する仏語“Logiciel Libre”を組み合わせた造語)だ(関連記事参照)。現在のGPLではフランスの特許法などで不足があることから、INRIAなど国立研究機関が集まって作成した政府の息がかかったものだ。発表と同時に、公職・国家改革・国土開発省のルノー・デュトルイユ大臣も賞賛の声明文を発行している。関係者は「今後、欧州レベルまで引き上げたい」と意欲を見せている。


 フランス政府はまた、OSS関連プロジェクトの財務的、人的支援にも積極的だ。次回、その一例としてObjectWebを紹介する。

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