市場動向――柔軟なシステム利用環境の実現運用管理の自動化でTCOを削減「仮想化」システム・リソースの自動運用 第1部

これまで企業ユーザーは、厳しい経済環境のもとで新規のIT投資を抑制しつつ、現行のシステム環境を運用管理面から見直し、コスト削減を図ろうとしてきた。IT投資が回復基調にあるとはいえ、企業ユーザーは依然としてIT投資に慎重で、コスト削減に対する圧力が弱まることはない。

» 2005年01月28日 06時25分 公開
[Open Enterprise Magazine]
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 オープン化の進展によって、ユーザーは特定のメーカーやベンダーに依存しない自由度と選択肢を手に入れ、PCハードウェアの低価格化で大量のPCが組織内に導入されたが、これによってコンピューティング環境は複雑さを増し、その運用管理性は大きく悪化することになった。

 この状況に対するソリューションとして、ユーティリティまたはオンデマンド・コンピューティングと呼ばれるシステム利用形態が提唱された。これらはいずれも、コンピューティング環境の複雑さを排除し、運用管理性を向上させることでTCO(総所有コスト)を削減するためのシステム側のアプローチである。

 電気やガス、水道と同様に、コンピュータ資源を公共サービスのように利用可能にするユーティリティ・コンピューティングでは、複数のサーバやストレージ、OS、ネットワークで構成される複雑なシステム環境を、仮想的に簡略化することで、運用管理性を向上させる。

 “仮想化”は、そのようなシステム環境を実現するための技術として注目されているが、このアプローチとシステム技術は目新しいものではなく、OSレベルでは1960年代のメインフレームの世界ですでに実現されている。今回の特集では、仮想化を取り巻く現状と技術動向、主なベンダーの取り組みについて紹介する。


運用コストの削減を目指す企業ユーザー

 社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が2004年2月に発表した「ユーザー企業IT動向調査2004」の結果によると、回答企業(749社)におけるIT予算額の合計は1兆1,939億1,200万円で、1社平均では前年比で約1億4,000万円の増加となった。

 企業のIT投資について報告書では、全体としてはまだ低いレベルで厳しい状況にあるとしながらも、2000年のITバブルと言われた年をピークに下がり続けてきたIT予算が、わずかながら上昇に転じたと分析している。

 各社のIT予算額については、前年度より増加したと回答した企業が全体の47%に達して昨年調査時の予想(35%)を大きく上回り、IT投資の回復を示す結果になった。その一方で、前年度よりも減少したと回答した企業も、昨年の予測(31%)を上回る34%に達した。IT投資が前年と「変わらない」と回答した企業は過去5年間で最も少ない19%となり、企業のIT投資に対する姿勢が二極化していることを示している。また、次年度のIT予算の予測については、全体の37%の企業しか増加を予想していない。これについて報告書では、「経済状況が依然として厳しく、先が読めないという現実をよく表わしている」と見ている。

 企業のIT予算は、現在のシステムを保守・維持するための運用コスト(保守運用費)と、新規システム開発のための投資(新規投資)に大別される。JUASの調査では、保守運用費が前年より増加したと回答した企業は全体の36%、減少したと回答した企業は29%となり、増加した企業の割合が高かった。しかし、次年度の見通しについては、10%以上増えると考えている企業は1社もなく、10%未満と回答した企業が全体の17%、減らすと回答した企業は42%に達している(図1参照)。

図1■保守適用費と新規投資の増減 [出典:日本情報システム・ユーザー協会]

 さらに、今回の調査では、企業の保守運用費は前年度と比べてもほとんど変化がなく、その内訳はハードウェアがほぼ3割、ソフトウェアが2割、通信回線費が1割、人件費が2割になっていることがわかった(図2参照

図2■保守運用費の内訳 [出典:日本情報システム・ユーザー協会]

リソースの利用効率を向上

 オープン標準の進展によって、ユーザーには豊富な選択肢が提供されるようになり、特定のメーカーやベンダーに依存しない環境を手に入れたが、その一方で、企業や組織内は異機種が混在する複雑なコンピューティング環境になった。また、ハードウェアの低価格化によるクライアントPCやPCサーバの増加、インターネット利用環境やネットワーク化の進展によるトラフィックの増加、デジタル化の進展による処理データの増加などが、システムの運用管理環境をより一層複雑にしている。

 この傾向はJUASの調査結果でも示されており、企業ユーザーがハードウェアの新規投資で重点的に投資する分野では、クライアントPC(56%)、IAサーバ(35%)、ストレージ(21%)が上位に位置づけられている。また、インタビュー調査では、現在多くの企業で大型汎用機からオープン系システムへの移行を進めていることが明らかになっており、今後1〜5年で移行を完了する予定の企業が大半を占めている。さらに、サーバ・マシンは増加傾向にあるが、企業ユーザーがハードウェアの低価格化を見込んでいることから、台数に比べて金額の増加割合が小さい。

 この1、2年で各ベンダーから提唱されているユーティリティ・コンピューティングやオンデマンド・コンピューティングは、このような複雑化するユーザーのシステム環境を簡素化し、リソースの利用効率と運用管理性を向上するためのアプローチの1つである。仮想化技術は、システムを構成する複数の異機種サーバやOS、ストレージなどのリソースを、それぞれ1つにプール(集積)して簡素化するための技術で、仮想化されたリソース・プールは、そのシステム上で実行されるアプリケーションやサービスで共有され、必要に応じて必要な量のリソースが割り当てられる。

 これまでのコンピューティング環境では、各アプリケーションやサービスはシステム・リソースの共有を前提として設計されていないことから、処理や容量のピーク時の要件に対応するには、通常のシステム運用時に必要とされる以上の余分な能力や容量を用意しておく必要があった。また、アプリケーションやサービスとハードウェア、OS環境の関係が固定化されているため、システム・リソースの使用率にバラツキがあり、リソースの利用効率は低いレベルにとどまっていた。

図3■サーバ更新の要因 [出典:日本情報システム・ユーザー協会]

 JUASの調査でも、企業ユーザーがサーバをリプレースするのは、「レスポンス、データ容量などのリソース不足」が理由の第1位を占めている(図3参照)。仮想化技術で仮想化されたシステム環境では、ハードウェアとソフトウェア、サービスの固定的な関係が開放され、ユーザーはビジネス・ニーズに応じて動的にリソースを割り当てることが容易になるため、システムの拡張性が増大することになる。これによりユーザーは、特定のシステム・リソースの不足によってシステム全体をリプレースする必要もなくなる。さらに、ベンダーなどによる調査によると、現在の企業ユーザーにおけるシステム使用率は50%以下とも言われており、サーバ・システムで15%程度、ストレージ・ディスクで40〜60%程度、システム全体では40%という結果も報告されている(PDF内、図4参照)。

仮想化のアプローチ

記事の続きは、以下のPDFで読むことができます。


本特集は、ソキウス・ジャパン発刊の月刊誌「Open Enterprise Magazine」の掲載特集を一部抜粋で掲載したものです。次の画像リンク先のPDFで記事の続きを読むことができます。同特集は、2004年10月号に掲載された第1部です。

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