税金の無駄遣い? 批判高まる英国のIDカード導入計画

個人情報とバイオメトリクス識別情報を格納したチップを組み込んだIDカードシステムを構築するという英国政府の計画に対し、個人情報の扱いやコストの面から批判の声が上がっている。

» 2005年02月07日 16時18分 公開
[IDG Japan]
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 バイオメトリクス技術を利用したIDカードを大規模な全国データベースに組み合わせるという英国政府の計画に対し、政界内で懸念の声が高まっている。

 英国国会議員で元国務大臣のピーター・リリー氏は、Identity Cards Bill(IDカード法案)を厳しく批判した報告書の中で、「強制的なIDカードの導入に向けた政府の計画は、卑劣な動機に基づく間違った考えを法律化しようというものだ」と述べている。この報告書は先週、保守党のシンクタンクThe Bow Groupから発表された。

 また、政府の人権合同委員会(JCHR)が先に発表した報告書によると、この法案は欧州人権条約に違反している可能性があるとしている。

 トニー・ブレア首相率いる英政府では、バイオメトリクス識別情報を格納したチップを組み込んだIDカードのシステムを構築するという法案を推進している。これらの情報は、2010年までに作成される「セキュアな国家データベース」にリンクされることになっている。このデータベースには、IDカード保持者の個人情報(氏名、住所、指紋、顔・虹彩スキャンなどのバイオメトリクスデータ)が記録される。

 JCHRでは、データベースに含まれる情報の中には「正当な目的に使われない恐れがある」ものがあるとの懸念を表明している。同委員会の報告書では、「個人が知らないうちに、あるいは個人の同意なしに」膨大な個人情報を収集、保持するという政府の狙いにも疑問を投げかけている。

 JCHRは、チャールズ・クラーク内務大臣に送付した書簡の中で、人権問題に関して同委員会が抱いている懸念について2月7日までに回答するよう求めた。

 ブレア氏およびクラーク氏は、「バイオメトリクスIDカードは、IDの盗用、不法就労、不法移民、テロリズム、国民健康保険などの社会保障制度の不正利用などに対する政府の戦いで不可欠なものである」と繰り返してきた(関連記事)

 しかしリリー氏は、「政府は間違った解決策を推進している」と非難する。政府の計画は、IDカードというアイデアが現時点で英国の世論の支持を得ているという理由だけで大量の税金を無駄遣いするものだという。

 「確かにIDカードには現代的な響きがある。大臣たちがバイオメトリクスやスマートカード、新技術などについて話すときの口調がまさにそうだ。彼らはあからさまな大衆迎合主義者なのだ。彼らは英国を欧州の隣人たちと同じような国にするつもりだ。これらの国々の多くは、何らかの形でIDカード導入計画を進めている。これは国民を子供のようにコントロールしたいという政府の願望の表れだ」とリリー氏は報告書に記している。

 同氏によると、IDカードが立法化された場合、政府が示している数字を単純計算しただけでも、この法律の実施にかかる費用は向こう10年間で55億ポンド(104億ドル)に上るという。

 リリー氏はこの技術そのものに対しても批判的で、バイオメトリクス検査が個人を誤って特定する割合は10〜15%に上るという内閣府の調査を引き合いに出している。「成人のカード保持者全員を年に一度だけチェックするとしても、400万人以上の人々が誤認されることになる」と同氏は指摘する。

 さらにリリー氏は、英国政府による過去の大規模なITシステムの導入実績も問題視している。「公共部門がこれまで実施したITプロジェクトの成果は惨憺たるものだ。そして今度のプロジェクトは、これまでで最大の失敗になるだろう」(同氏)

 英国政府はこれまで、ITシステムで数々の見苦しい失敗を経験してきた。昨年11月に起きた雇用年金省(DWP)のシステムのダウンは、政府史上最大のコンピュータクラッシュだと言われている。またDWPの児童支援局でも、Electronic Data Systemsから4億5600万ポンドで調達したシステムで苦労しており、政府はこのシステムを廃棄することを検討中だ。

 国民健康保険のインフラの大規模なアップグレードも英国政府の頭痛の種になっている。このプロジェクトは予定より遅れているばかりか、当初予算の62億ポンドが大きく膨れ上がり、政府の現在の見積もりでは少なくとも150億ドルのコストがかかる見通しだ。

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