「オープンソース・アーキテクチャ」でOS以外にも進出するレッドハット各ベンダーの最新戦略を知る

Linux勢で最初に紹介するのはレッドハットだ。すでに確立した自身のビジネスモデルを貫きつつ、ミドルウェアなどの市場にも乗り出している。

» 2005年03月08日 19時15分 公開
[ITmedia]

 Linux勢で最初に紹介するのは、現時点で最大勢力と言っても過言ではないレッドハットである。ノベルがSUSEを買収したことで、その座も安泰とは言えない状態ではあるが、すでに確立した自身のビジネスモデルを貫いていく様子だ。

エンタープライズ市場に注力

 レッドハットは2003年11月、それまでのLinux製品ライン「Red Hat Linux」を終了し、顧客には有料のRed Hat Enterprise Linuxに移行するよう求めていくことを発表した(関連記事参照)。これに伴い、「Red Hat Linux」の最後のバージョンとなった「Red Hat Linux 9」のサポートも2004年4月30日に終了している。

 この結果、現在の同社の製品ラインは「Red Hat Enterprise Linux」(RHEL)シリーズに絞られることとなった。RHELの最新バージョンは、2005年2月にリリースされたRed Hat Enterprise Linux 4(RHEL 4)。構成としては、ハイエンドサーバ(DB、CRM、ERP用途など)向けの「RHEL AS」、中・小規模サーバ(DNSやWeb、FTPなど)向けの「RHEL ES」、デスクトップ・クライアント向けの「RHEL WS」の3エディションが用意されている。このほか、2004年10月からはRed Hat Linux 9ベースのデスクトップ製品「Red Hat Desktop」の国内販売も開始している。

 リリースされて間もないRHEL 4の最大の特徴といえば、Linuxカーネル2.6の採用だろう。RHEL 3でもその機能の一部がバックポートされていたが、通信やメモリサブシステムの機能を強化した完全版の採用という意味では、2003年8月にノベルがリリースしたSuSE Linux Enterprise Server 9に遅れを取っていた。

 そのほか、SELinuxがデフォルトで有効となったほか、ストレージシステムを複数のハードディスクに分散したりハードディスクの一部に限定するLogical Volume Manager(LVM)2、Microsoft Exchangeサーバから電子メールを取得するためのコネクタなども搭載されている。

 対応するプラットフォームは、IA32だけでなく、ItaniumおよびAMD64、EM64T(AS/ES/WS)、eServer zSeries/pSeries/iSeriesおよびS/390(ASのみ)など幅広い。

 さらに同社は、SunのSolarisが動くサーバをコントロールできるよう、Red Hat Network管理サービスの拡張を進めている。これは、SolarisからRHELへの移行中に利用できる管理ツールを顧客が望んだ結果であるとしており、Sun Microsystemsから顧客を奪う取り組みを拡大させた格好となる。

サブスクリプションモデル

 RHELの販売形態は1年ごとの「サブスクリプション契約」となっている。OSそのものに価格を設定するのではなく、レッドハットが提供するサポート/サービスの対価として価格が設定されているわけだ。これは、Red Hat Linuxの配布を通じて「Linuxビジネス」のあり方を探索してきた同社が、結論としてたどりついたビジネス・モデルということになる。オープンソースとして配布されているフリー・ソフトウェアを有償で販売することの難しさや、企業ユーザーにとってのサポート/サービスの価値を理解しているからこそ生まれてきたビジネス・モデルであるといえる。この手法はほかのLinuxディストリビューターにも大きな影響を与えることとなった。

 このモデルでは、WindowsのようにOSの買い換え需要を喚起する必要がない。むしろ、既存のプラットフォームをいかに安定して稼働させ、いかに確実かつ迅速なサポートを提供することが重要となる。

 現時点でレッドハット日本法人のWebサイトでは、RHEL 4の国内におけるサブスクリプション価格についてはアナウンスされていない。これは、4月以降でのローンチを考えているため、現在調整中であるためだと予想されるが、料金体系については基本的にこれまでと変わらない見込みであるため、米国のサイトを見ることでおおよその目星をつけることができる。たとえばRHEL 4 ESの場合、標準のサポート付きで年間799ドル、また、プレミアムサポートが受けられるRHEL 4 ASは年間2499ドルとなっている。

コミュニティーの再構築も進む

 「Red Hat Linux」として提供されていた製品ラインは、「Fedora Project」というプロジェクトが引き継ぎ、最新のテクノロジーを取り込みながら「Fedora Core」を比較的短いスパンでリリースしている。最新バージョンはFedora Core 3だ。

 Red HatはRHELを事業の根幹としているが故に、安定性に焦点を絞らざるを得ない。しかし、このことは革新が閉ざされがちになることを意味する。そこをFedora Projectで補完しようとしているのである。コミュニティーのユーザーがコンポーネントの開発/保守も行うことで、Red Hatがオープンソース界における中心的存在となるだろうという狙いも込められていた。

 この決定は、サンがかつて取った戦略――OpenOffice.orgを支援する一方、アドオンを付けてStarOfficeとして販売する――に似ている部分もある。また、サンもSolaris 10以降、これに似たモデルを採用していくとしている(関連記事参照)

 だが、当初のFedora Projectは、必ずしもRed Hatの期待に応えるものではなかったようだ。あまりに短期間のうちに多くのユーザーにFedora Projectへの参加を呼びかけた結果、単純なバグ報告ばかりが寄せられる結果となってしまったのである。そこで、Fedora Projectのシステムおよびプロセスをしっかりと確立することで、改めて外部プログラマーの強力なコミュニティーを構築し、Fedoraの開発やサポートに役立てようとしているのである。Fedora ProjectでCVSが導入されたのもこのあたりに起因している。

 なお、間もなくリリース予定のFedora Core 4では、IBMのPowerプロセッサをサポートし、また同一のコンピュータ上で複数のOSを同時に走らせるためのソフトウェア「Xen」にも対応する予定だ。

ディストリビューターからの進化

 同社の最新動向で注目すべきは、アプリケーション、特にミドルウェアや開発機構の分野にも目を向けていることである。同社では、ユーザー企業がオープンソース・ソフトウェアのメリットを最大限に活用することを支援する「オープンソース・アーキテクチャ」コンセプトを掲げている。主要なITインフラ・コンポーネントをオープンソース製品としてカバーしていくことが、同社の現在の戦略のようだ。

 この戦略が具現化したものとして、2004年6月にリリースされた「Red Hat Global File System」が挙げられる。同製品は、同社が2004年1月に買収を完了した米システィナ・ソフトウェアが持っていたGFS関連技術技術をベースに、機能拡張・強化を施して開発したもので、クラスタ構成を前提とした大規模なファイル共有サービスを提供するためのファイルシステムである。Red Hat Networkの購読者にサーバ1台当たり2200ドルで提供されるが、そのソース・コードは当時の約束通り、GNU GPLに基づきオープンソース・ソフトウェアで提供されており、Cluster Project Pageから入手可能だ。

 また、2004年8月に発表された「Red Hat Application Server」もこの戦略に沿ったものだといえる。同製品は、ObjectWebが開発したオープンソースアプリケーションサーバ「JOnAS」(Java Open Application Server)を基盤とし、Apache Axis、JSP・サーブレット環境構築に使うTomcat、Java管理拡張(JMX)採用のJakarta Server Management、メッセージング、クラスタリング、Intelの32ビットXeonプロセッサとItaniumプロセッサ、IBMのPowerPCプロセッサをサポートしている。同社は、ミドルウェアコンソーシアムの仏ObjectWebと共同で、オープンソースのJavaアプリケーション開発を進めていた(関連記事参照)

 すでに円熟期に入ったかのような同社だが、こうした新しい製品群を皮切りに、OS以外のさまざまな分野への進出を行い、オープンソース・ソフトウェアとして提供・販売していくことになるだろう。

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