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» 2005年04月09日 19時29分 UPDATE

ディストリビューター訪問記:Linuxにとっての桃源郷はどこにある?――ターボリナックス

ニュースだけでは見えてこない部分を、ディストリビューターのトップを訪問して聞いてしまうこの企画。第1回は辛口のコメントが特徴的なターボリナックスの矢野氏だ。

[西尾泰三,ITmedia]

 ITmediaエンタープライズで公開中の「OS選択の新常識」。これまでに主要なLinuxディストリビューター4社の最新戦略について触れた。

 今回からは、そうしたディストリビューターのトップに直接話を聞くことで、より具体的な部分を引き出していきたいと思う。第1回となる今回は、ターボリナックス代表取締役社長兼COOの矢野広一氏に話を聞いた。

矢野氏 「ターボリナックスはOS――オープンソースでありオペレーションシステム――の会社」と矢野氏。この4月でBlogの更新が終了してしまったのが非常に残念である

ITmedia 現在の開発スケジュールを教えてください。

矢野 Turbolinux 10 Desktop(10D)Turbolinux 10 Server(10S)とLinuxカーネル2.6を採用したディストリビューションをひととおり出しました。向こう2年はLinuxカーネル2.6がメインストリームであることを考えると、2005年中に何か大きな変更が入るもの、例えばTurbolinux 11を発表することは考えていません。

 とはいえ、10Dはリリースから2年たっていますので、基本機能などを強化したものは考えています。コードネームでいえば「Fuji」となりますが、ユーザー層を考慮した機能を盛り込んでいく予定です。

64ビットに対するベンダーとユーザーの意識のずれ

ITmedia 2005年2月には、EM64TやAMD Opteronに対応した「Turbolinux 10 for EM64T/AMD64」のテクニカル・プレビュー版を一般公開しました(関連記事参照)が、64ビットに対してはどんなスタンスで臨むのですか。

矢野 こちらはこの夏をめどにリリースを考えていますが、少し早めるかもしれません。正直なところ、今64ビットに対応したTurbolinuxを出して、それが爆発的に売れるとは思いません。とはいえ、2003年4月に「Turbolinux 8 for AMD64」を他社に先駆けてリリースしたころと比べると、予想よりも反応がいいなとは思います。

ITmedia 64ビットの機は熟していない?

矢野 投資保護の観点から64ビットCPUを選択することはあるでしょうが、本格的に64ビットにシフトするのは少し考えにくいですね。科学技術計算などの領域を別にすれば、ユーザーの購買意欲はインテルやAMDが考えているものと少しずれがあると思います。

 わたしたちも64ビット環境は検証していますが、従来の32ビット環境と比べて、さまざまな観点から処理速度が2、3割向上することは確かです。しかし、32ビット環境でもメモリを大量に搭載すれば解消されてしまう程度のものであることも事実です。64ビット化されることで得られる広大なメモリ空間を生かして、HDDを必要としない製品などが出てくれば、64ビットへの移行が進むかもしれませんが、それにはもう少しかかるのではないでしょうか。

LCCはUnitedLinuxと同じ?

ITmedia 2004年11月にLinux Core Consortium(LCC)に参加していますが(関連記事参照)、これはどういった動きなのでしょう。

矢野 LCCはUnitedLinuxの理念――1つのコアを持った製品を各社から提供していこうとするもの――を継承する動きであることは間違いありません。UnitedLinuxの理念はある意味では理想だったと思います。今回は特にDebianとRPMが共存できるようなフレームワークを作ろうとしていますが、理念は良くても実際にやっていくのはやはり難しいです。ただ、UnitedLinuxのメンバーであったConectiva(2005年2月にMandrakesoftが買収)のCEOジャック・ローゼンツバイク氏やわたしなどはUnitedLinuxの何が駄目で何が良かったか知っていますので、いい方向に持っていけると考えています。ただ、(LCCのことは)忘れてもらっていいかもしれません(笑い)。

ITmedia 忘れたほうがいい(笑い)?

矢野 米国でのビジネスが非常に厳しい状態にあるProgenyなどは何でもいいから早く成果物を出したい、という考えがあるようですが、ターボリナックス、そしてMandriva(2004年4月にMandrakesoftから社名を変更)も現在本業で困っているわけではありません。しかし、「Next Big Things」は何かやりたいという考えは持っているので、研究開発的な視線でLCCに参加しているのです。

 例えばTurbolinux 10 Serverをベースとし、UnitedLinuxのときのSUSEのような役回りをターボリナックスがやってもいいのですが、今、それをやらなくてはならないという状況でもありません。年内にLCCの成果物が出ることは間違ってもありませんから、そんなものに期待をされても困りますよ(笑い)。

エンタープライズLinuxが桃源郷とはなり得ない

ITmedia エンタープライズLinuxはどういった方向に進むと思いますか?

矢野 現時点でのエンタープライズLinuxはRed Hatで収束しつつあって、今までの支配構造がMicrosoftからRed Hatに変わっただけです。ペンギンさん(Linux)が市場のシェアを取るのではなくて、Red Hatが取るというのは本質的な解決にはなっていないなと思います。

 とはいえ、ターボリナックスがRed Hatと同じ土俵に上がって何かする、というつもりはありません。ハードウェアやミドルウェアのサーティファイなど、こちら側でどうこうできないものに事業の根幹を委ねざるを得ない状態で収益を上げていこうとするのは非常に危険なのです。サーティファイを取るのに腐心しない方向に目を向けたことで、ようやく黒字に変わったという事実もあります。

 ミッドレンジの領域は、ターボリナックスの実力がいかんなく発揮できますし、そこで実績を積み重ねていくことで、ベンダーも目を向けてくれるのだと考えています。

ITmedia 2005年2月に「IBM eServer xSeries」上で10Sをサポート(関連記事参照)した日本IBMや、3月にLinuxサーバビジネスで協業を発表した東芝のようにミッドレンジにおけるターボリナックスの意義を理解するベンダーも出てきましたね。では、もうミッションクリティカルな領域などには目を向けないということでしょうか?

矢野 向けないわけではありません。ただ、50人程度の企業規模で背伸びをしてエンタープライズからデスクトップまでカバーできるわけがありません。重要度からいうとそこには依存していないということです。わたしたちが今ボリュームゾーンと考えているのはミッドレンジ、もっと踏み込んで言えばホスティングの市場です。

ITmedia デスクトップの領域を切り離して、エンタープライズの領域に集中すれば良いのでは?

矢野 ありえないですね。それは一番楽な選択ですよ。中国であればRed FlagなどはエンタープライズLinuxにシフトしていますが、それはビジョンを持っているわけではなく、そちらのほうがもうかるから、楽だから、という理由でそちらにシフトしたに過ぎません。ただ、残念ながらLinuxのビジネスモデルというのはミドルウェアと異なり、そちらにいったところでそこが桃源郷ではないというのがわたしの考えです。

Solaris 10、そしてライセンスに関して

ITmedia サンのSolaris 10はどう見てますか?

矢野 サンについてはある種の脅威と言ってもいいものを感じています。Sun Java DesktopやSun Rayなど彼らが考えている世界はピンポイントでわたしたちの競合となりますので、うちをパートナーとして見てくれればうれしいですが、そうでなかったら非常に大きな脅威です。

 Solaris 10については(ターゲットの市場が異なることもあり)あまり考えていないというのが正直なところですが、OpenSolarisに未来があるかと聞かれれば、厳しいだろうなという気もします。あと2年早ければ展開も違ったでしょうが。

ITmedia GPLなどのライセンスについては何か思うところはありますか?

矢野 ライセンスに関していえば、米HPとアジア12カ国で展開するOEMライセンスを結んだ際にそれこそ徹底的にリーガルチェックを受けました(関連記事参照)。そのため、現時点でGPLに違反するようなコードはターボリナックスの製品には存在していません。ただ、本当に手をつけなければならないのはパテントなんですよ。パテントに抵触していないかを証明する手だてというものがないのです。このあたりは、国が超法規的にくだらないソフトウェア特許は認めない、となることを期待したいですね。


次回はレッドハットの代表取締役社長の藤田祐治氏を訪ねよう。



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