Eclipseはオープンガバナンスで躍進した――Foundationミリンコビッチ会長

780以上の商用プラグインが販売され、500以上の関連プロジェクトがSourceForge上で動いている。Eclipseは、開発統合環境として世界的な広がりを見せるプラットフォームとなった。そして、商用ベンダーをも巻き込む動きが2005年、本格化した。

» 2005年04月25日 17時29分 公開
[木田佳克,ITmedia]

 2005年2月、BEA(関連記事)、ボーランド(関連記事)、サイベースなどがStrategicメンバーとして参画表明。2004年までは、IBM以外のツール商用ベンダー各社が敵対視と思われたEclipseは、商用ベンダーによる協調へと向かった。アプリケーション開発共通プラットフォームとして、商用をも巻き込むスタンダードの道を歩んでいる。

企業の疑問に応えるEclipseの国内拠点設立へ

 この勢いをさらに拡充すべく、日本国内でもEclipseの企業利用、普及促進拠点を目的として設立されたのが「Eclipse Japan Working Group」(以下、Eclipse Japan WG)だ。

4月25日現在、アジア圏で初の講演というEclipse Foundationのマイク・ミリンコビッチ会長(写真右)。同氏は、元オラクル副社長やウェブゲイン、IBMを経てEclipse Faundationへ。写真左は、Eclipse Japan Working Group事務局を担う、NTTコムウェアの堂山真一氏。NTTコムウェアがなぜ事務局を? との問いに同氏は、EJBコンソーシアムの実績とメンバー協調からと語った

 4月25日、千葉のNTT幕張ビル内で、Eclipse Japan WGの第1回目となるセミナーが開催された。会場には、企業内でアプリケーション開発に携わるプロジェクトマネージャを中心とする参加者が集った。別会場の技術セッションでは、Eclipse RCP(後述)のハンズオンが行われ、限定20名募集が即満員になったという(堂山氏)

 Eclipse Japan WGは、NTTコムウェアが事務局となる団体であり、富士通、日立製作所、日本電気、日本アイ・ビー・エム、日立ソフトウェアエンジニアリングが幹事メンバーとなって発起したもの。25日のセミナーには、米国Eclipse Foundationのエグゼクティブディレクター、マイク・ミリンコビッチ会長も招かれ、国内におけるEclipseの拠点設立という印象を受けた。マイク・ミリンコビッチ会長からは、これまでの動向を始め、Eclipse成功への道が語られた。

Strategicメンバー企業は、13社。前述したBEA、ボーランドも相次いで加わり、開発ツールベンダー大手はほぼ参画となった

 NTTコムウェアのオープンソースソフトウェア推進部、堂山真一氏は、EclipseはJavaアプリケーション開発のIDE以外にも注目されていると強調し、Linux上でのアプリケーション開発や、家電を中心とする組み込み系の開発、携帯電話の開発環境、試験PFや今後クローズアップされていくリッチクライアントPF(Eclipse RCP)、プラグイン開発など、さまざまな開発統合環境として用いられるプラットフォームであることを来場者に印象づけた。

これまでに商用ツールでEclipseベースとしてリリースされた製品。ベース利用の代表格として本家のIBM Rational Developerはもちろん、SAPのNetweaver Studioなどミリンコビッチ会長が強調

 これほどまでに広がりを見せているEclipseに、今後、どのような関わり方があるのだろう? セミナー来場者に則したテーマについて、いくつかの回答が示された。

 個人(企業内個人)であれば、バグ報告などを適切な手順で行う「Contributer」、十分な開発実績を持ち、現コアメンバーからの推薦が必要なソース反映権限を持つ「Commiter」メンバーを挙げる。

 企業では、教育機関やメディアによる無料の「Associate」を始め、年間5000ドルの支援会員となる「Add-In provider」、さらに開発ツールベンダーが中心となる企業規模に応じて2千5百万円程度からの「Strategic」メンバーを挙げた。Eclipse Foundationは現在、Strategicメンバーを中心とする参加企業によって、年間2億以上を得る規模で活動しているという。ただし、メンバーとして企業名を連ねるにはFoundationから数々の条件が提示されるため、なかなか苦労するもの、と堂山氏。

Eclipse成功のカギはオープン、透過性と成果主義

 さらに、ミリンコビッチ会長は、Eclipseが成功へと結びついた理由を次のように語った。

 1つ目は、「Ecosystem」と呼ぶEclipse最大の特徴とも言われ、商用ツールベンダーとの共存共栄を予め想定していたモデルについて。従来の商用ツールベンダーの多くは、各社多様に開発した独創性こそが製品の強みとし続けてきた。しかし、複雑化するアプリケーション開発事情を始め、オープンソース界の開発モデルを軽視することができなくなってきたことは大きい。敵対視がもはや得策ではないほどの影響力を持ったのが、Eclipse。

 このような背景から、オープンソースソフトウェア(OSS)の開発土壌を活かし、商用でも共通化が実現できる部分は積極的に取り入れていく、という見解が「Ecosystem」だ。後述するオープンガバナンスにも通じるが、すべてのEclipseプラットフォームのプロジェクトは透過性を重視しており、Commiterの働きはもちろん、リリース予定や開発メンバーのやり取りすべてをオープンにしている。

 商用ベンダーは、ツール間結合を高め、操作性を共通化することでEclipse上の付加実装こそが各社の見せ所になる。メリットは標準を取り入れた早期の市場参入、そしてコミュニティーで洗練されていることからも、コストとリスクが軽減できることと語る。

 2つ目は、前述したようにEclipseは、JavaのIDEに限らないプラグイン拡張構造を持つ。これは、コアとなるバイナリー以外に代表格のJDTはもちろんのこと、C/C++やModeling Framework、UML2などの「ツール」プラグイン、Web Standard ToolsやJ2EE Standard Toolsの「Webツール」プラグイン、Hyades(Test)やTracing、Monitoringの「テスト」プラグインなど、利用する開発分野ごとの拡張性がそれぞれのプロジェクトとして動いていることにも所以する。現在は、Javaアプリケーション開発環境がクローズアップされているが、開発分野全体を包括する協調が見いだせたという。

 3つ目は、Eclipseは2001年11月、IBMによるオープンソース化で誕生したわけだが、ガバナンス構造はそのまま継承され、開発における意志決定や組織形成が、OSSとしては希なほど比較的厳しく制定されていることだという。前述したように、OSSとしては制定しづらいリリースロードマップを明らかとし、透過性を徹底したことが企業参入へと広がりを見せた理由と語る。

 この透過性効果は、企業がEclipseを採用するための判断材料として好都合なもの、と当初からの目的だという。見通しの良い十分な情報を提供することがポイント、とミリンコビッチ会長は強調する。もちろん、透過性の背後には、OSSが持つ価値観も共存しており、優れた開発統合環境が作り出せることを確信していたと語った。

 さらに、商用で採用しやすいようにシンプルなライセンスモデル採用も多くからの理解を得た理由の1つと語る。

 例えば、Eclipseのコア部となるソースコード改変には公開することが義務づけられるが、アドオンの形で開発した成果には開示の義務は発生しない。業界では、OSSにおけるライセンス問題が誤解の矛先となりやすい傾向にあるが、この点をシンプルにすることで企業が参画しやすいよう配慮したという。

 ミリンコビッチ会長は4月26日(火)、東京・青山で開催の「UML Forum/Tokyo 2005」でも講演を行う予定だ。

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