ECはオランダの大学の研究チームにソフトウェア特許が技術革新に与える影響に関する研究を委託しているが、ECはその結論を待たずにソフトウェア特許の法制化を推進するという奇妙な構造が見えてくる。(IDG)
オランダの大学の研究チームが欧州委員会(EC)の委託を受け、ソフトウェア特許が技術革新に与える影響に関する研究を行っている。しかしECでは、この研究の結果の発表を待たずにソフトウェア特許を導入する計画を推進している。
オランダのマーストリヒト大学の研究チームは2004年12月、ソフトウェア特許がソフトウェアの技術革新に与える法的/技術的/経済的影響に関する研究を開始した。研究期間は3年とされている。
この研究では、広い観点から経済的影響の検証が行われる。マーストリヒト技術革新経済研究所(MERIT)でフリー/オープンソースソフトウェア研究プログラムの責任者を務めるリシャブ・エイヤー・ゴーシュ氏は、「特許よりも技術革新に主眼を置いて研究を行う。ソフトウェアだけに限定するつもりはない」と話している。
研究が終了するのは2007年末になる見込みだが、MERITの研究チームは特許に関する調査の中間報告書をリリースする予定だ。「年内をメドに何らかの報告書を発表するつもりだ」(ゴーシュ氏)
しかしこの暫定報告書も、欧州でのソフトウェア特許の法制化の動きに影響を与えるのに間に合わない可能性がある。
ゴーシュ氏のチームによる研究は、ECの情報化社会・メディア総局の後押しを受けているが、ECのもう1つの部門である域内市場総局は、激しい議論の的になっているソフトウェア特許法案を推進している。この法案は、欧州連合(EU)加盟25カ国を通じてソフトウェアに特許を与える方法を共通化することを目的としたもの。EUの法律(指令)は、加盟各国の国内法よりも優先される。
ECがソフトウェア特許の法制化が技術革新にどのような影響を与えるのかに関する研究を委託し、しかもその結論を待たないというのも不思議な話だ。
「確かに不思議だ」とゴーシュ氏は言う。
現在、ソフトウェアの発明に関する特許の申請に対する扱いは、EU加盟各国の特許局および欧州特許庁(EPO)によって異なる。EPOは、多数のEU加盟国に加え、ブルガリア、アイスランド、リヒテンシュタイン、モナコ、ルーマニア、スイス、トルコを管轄区域とする。
一部の国々(およびEPO)では、ソフトウェアそのものに対して特許を認めている。その一方で、機械(コンピュータによって実現される発明)の一部としてソフトウェアに特許を認めている国もあれば、ソフトウェアの特許を一切認めていない国もある。
ECでは、コンピュータによって実現される発明に関する法律を導入することで、EU加盟各国でソフトウェア特許の扱いを統一したい考えだ。
ECが提案した法案は欧州議会から激しい抵抗を受けた。法制化プロジェクトに対する反発は大きく、2月には欧州議会が法案作成作業をやり直すよう求めた。だがECはこの要求に応じなかった。大幅に修正された法案が第一読会で承認され、まもなく第二読会に提出される。
ECはオープンソースソフトウェアが果たす経済的役割に関心を抱いており、先週、この問題に関するもう1つの研究プロジェクト「FLOSSWorld」に約63万ユーロ(82万9000ドル)の資金を提供すると発表した(関連記事参照)。FLOSSWorldは2年間に及ぶ国際的研究プロジェクトで、フリー/Libre/オープンソースソフトウェア(FLOSS)の利用と開発が地域経済に与える影響を調べる。フランス語の「Libre」という言葉が使われているのは、「自由」というフリーの意味を、もう1つの意味である「無料」と区別するためである。
この研究にはEU各国の研究者に加え、アルゼンチン、ブラジル、ブルガリア、中国、クロアチア、インド、マレーシア、南アフリカの協力機関の研究者が参加する。これらの協力機関はEUの資金援助を受ける。同プロジェクトに参加する日本、韓国、米国の組織は援助を受けない。
ゴーシュ氏がFLOSSWorldに対して望んでいるのは、全世界の開発者がオープンソースプロジェクトにどのように貢献しているかを明らかにすることだ。例えば、中国のプログラマーは、ほかの国で開発されたコードをローカライズするのに多くの時間を費やしているのか、それともオープンソースプロジェクトに独自の貢献をしているか、といったことだ。こういった疑問に対する答えは、マドリードで行われているソースコードの研究で明らかになるかもしれないという。FLOSSWorldの研究成果は2007年に発表される予定。
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