Googleが急ぐアプリ共有の世代Webアプリ開発の新基準

Googleは、検索サービスとしてGoogle Mapsを2005年2月にβ公開、10月に「Google Local」として統合化された。Maps APIの提供や日本語圏対応で注目を集める同社に、Web上でAPIを公開する狙いや意味について聞いた。新しい風潮はGoogleのどこから感じ取れるのか?

» 2005年10月27日 08時00分 公開
[聞き手:渡邉利和,ITmedia]

 Googleは、自社Webサービスへのアクセス方法を外部にAPI(Application Programing Interface)提供することで、派生サービスとしての可能性を多くの開発者に提供している。

 この情勢はGoogleに限ったことではない。Sun Microsystemsも「Share」をキーワードにするなど、Web上のサービスは今後、“共有”させることが大きなポイントとなりつつある。このオンライン・ムック「Webアプリ開発の新基準」のインタビュー記事は、Googleの日本法人、グーグルで研究開発センターエンジニアリングディレクターを務めるハワード・ゴビオフ博士に聞き、現在最もホットな同社のGoogle Maps(Google Local)(関連記事)からWebの進むべき方向性の1つを感じ取ってほしい。

 インタビューを行ったゴビオフ博士は、Google創立直後から米国カリフォルニア州のマウンテンビューでさまざまなサービスや機能の開発に携わってきた人物だ。現在は、東京R&Dオフィスの確立を職掌としており、同オフィスのエンジニアを統括し、雇用から教育、プロジェクト指導などに責任を負っている。

ITmedia グローバルにAPIを提供することで、市場とGoogle自身にはどのような影響があったと分析していますか。

ゴビオフ Googleでは現時点で大きく分けて3種類のWeb APIを公開しています。1つはGoogle Ad Systemで使われている「Google AdWords API」、ほかに「Google Maps API」と「Google Web API」です。この中でもAd(広告)に関わるAPIは、ほかの2つとは異なる影響がありました。広告キャンペーンを管理するということは、実に複雑なタスクとなる可能性があります。GoogleがAPIを公開することにより、この分野へ取り組む人たちが付加価値となるサービスへと容易にアクセスできるようになったといえます。

 一方、Web APIとMaps APIについては、Googleが「Web上でサービス実現のために、一度にすべてを実行できるようにする」ためのイノベーションとしての第一歩です。基盤となるサービスを構築することで、さまざまなサービスを展開するアイデアを持つ開発者へ環境を提供できたことが大きなところです。

 Web上でアイデアを実現するためには、Googleよりもうまく解決できる有志が多数います。彼らにいくつかの中核となるビルディングブロックを提供することで、問題解決に取り組めるようにしているのです。

 現在のところ、Web APIの利用者として多いのは学術研究関係のユーザーです。Webで研究を行い、問題の解決に取り組んだり、時間の経過によってWeb上のキーワードやパターンがどう変化していくかを見たりしています。また、われわれはWebをスペルチェッカーのように利用できるようにもしています。これらの活用も、APIの可能性を広げるものとして注目されています。

ITmedia Google Mapsサービスの現状は?

ゴビオフ Google Mapsは2005年10月現在、Google Local(Google ローカル)として統合されたプロジェクトになっています。そして、Maps APIは継続して提供していきます。このようなAPIの提供形態は、Googleでサービスを開発する場合の一般的な取り組み方です。まずは基本的な機能を実現できるレベルまで開発し、βバージョンとして公開するのです。

 われわれが言う「βバージョン」のサービスは、正式サービスとして実現したいと考えている域に達するには長い時間を要します。もちろんすべてのβバージョンのサービスについて、一刻も早く正式サービスに移行したいと望んでいます。しかし、いつサービスが「完全」になるか、具体的な目標時期などは設定していません。それが更なる革新につながっていくと考えているからです。

 Maps APIに関しては、具体的な利用人数を公表していません。しかし、日本を含む全世界の開発者から利用登録を受けており、インターネット上でMaps APIを利用したユニークなサービスを提供しているサイトが多数登場しています(関連記事)

ITmedia 利益確保の計画はどのようになっているのですか。

ゴビオフ 現時点では有料化のプランはありません。将来に関しても、有料化に関して確定的な計画はいっさい予定していません。

 Mapsに関して、日本国内の地図情報提供でゼンリンデータコムと提携しています。Googleには得意な分野がある一方、不得意な分野もあり、どのようなアプローチが適切か分からない分野もあります。ゼンリンに関していえば、彼らは地図情報の豊富な蓄積を有しており、「どの都市がどのように見えるか」「どこに希望する店舗があるのか」などに熟知しています。地図上に小さなアイコン、たとえばコンビニエンスストアのロゴなどを表示させると、地図を見ながら街を歩く人には格好の目印になります。こうした情報を集めて整理し、地図上に重ねていく作業はどちらかというとGoogleが得意分野ではありません。このため、ほかのパートナーが強みを持つ分野ではその助力を得て、それぞれが得意分野に注力するのが望ましいと判断しています。

 ゼンリンは、Google Local(Google Maps)の分野で協業しているパートナーのうちの一社です。一方で、Googleは衛星写真も公開しており(Google Earth)、これは多数の企業から素材購入したものです。こうしたサービスの実現にはもちろん多大なコストが掛かっていますが、実はGoogleの動機はダイレクトに収益を生み出すことではないのです。Web上でなにか面白いことをしてみたかった、という側面が強いといえます。そのためにも、現時点では自社内でのコストパフォーマンスに関しては特に問題視していません。エンジニア主導であり、楽しむために予算を費やしているといってよいかもしれません。

ITmedia Webアプリケーションの将来をどのように見ていますか。

ゴビオフ Webサービスの分野では、今後ますます多くのサービスが、ある程度の処理をクライアントのWebブラウザ上で実行することが予想されます。Google Local(Google Maps)のようなAjaxスタイルになっていくと見ています。

 Ajaxスタイルのサービスでは、ユーザーがサービスを自身の必要に合わせて自由にカスタマイズすることが容易という特徴もあります。Googleが持っているデータを活用し、その見せ方をユーザーが必要に応じて変更すればよいわけです。Googleはデータを呼び出す部分(API)を作り込み、好みの見せ方にするための手段を提供すればよいのです。こうした分離は、今後ますます一般的になっていくでしょう。一方、Javaや.NETでは、ユーザーの個人的な好みや設定をより多くサポートするような、デスクトップアプリケーションの提供に向いているでしょう。開発には、より大規模な開発環境が必要になるという違いもあります。

 「Webサービス」は、確かにバズワード(Buzz Word)という面がありました。現在でも、バスワードをさらに広めようとして活動を続けている人はいるようですが、一方でWebサービスの技術を利用して確かな成果を生み出している人もいます。Webサービスは、Web/インターネット環境では利用しやすい技術といえます。われわれは現在でも、Webサービスの技術を使い、Web上にサービスを実装し続けています。広く使ってもらえるようすることが可能だと信じています。そして、共感してくれるユーザー/開発者の双方がメリットを引き出すことが可能だと考えているのです。

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