「それでも紙は残る」――スピーディな行政運営目指し電子文書化に取り組む横浜市

横浜市は2005年9月から文書管理システムを導入した。文書の収受・起案・決裁・保存・廃棄のライフサイクルを電子化するとともに、PDFの活用により決裁手続きの効率化と迅速化を進めている。

» 2006年02月28日 14時58分 公開
[丸山隆平,ITmedia]

 政府が打ち出したe-Japan戦略を踏まえ、横浜市は2003年に「電子市役所推進計画」を策定した。(1)市民と行政間のコミュニケーションの拡充、(2)便利で利用しやすい市民サービスの実現、(3)スピーディで効率的な行政運営の実現――がその目的だ。これら目的の実現にはITの利用が欠かせない。中でも膨大な量の文書管理事務を効率化・簡素化することが緊急のテーマだった。横浜市では、総合的な文書管理システムの導入を決定。2004年から設計を開始し、2005年9月から市役所全体で運用を開始した。

中村隆幸氏(左)と石田哲也氏(右) 横浜市総務局行政部法制課担当係長の中村隆幸氏(左)と同 石田哲也氏(右)

文書の事務処理を電子化

 従来の横浜市の文書管理は、決裁手続きを紙文書で行い、作成した文書は紙で記録・保存していた。そのため、年間の文書処理件数は数百万件に及んでいたという。問題となっていたのは、紙文書の整理や検索・廃棄といった作業だ。紙の場合、保存スペースが必要な上、ファイリングや検索に多大な時間が掛かる。また、文書の廃棄も廃棄年度を1つ1つ確認した上で、分別しながら行わなければならなかった。

 横浜市総務局行政部法制課担当課係長の中村隆幸氏は、「このように文書管理に多大な時間が掛かるので、文書管理システムを導入し、効率化を図ることにした」と語る。

 そこで横浜市では、富士通の自治体向けの文書管理システム「IPKNOWLEDGE文書管理」を導入。これをベースに、文書の保存量が数百万件と大規模な横浜市向けにカスタマイズを行った。サーバには、文書管理システム専用に「PRIMEPOWER 450」を導入し、職員が使用しているクライアントPCからアクセスする。

 また、決裁のプロセスが複雑で多層にわたるため、IPKNOWLEDGEの電子決裁機能を対応させたり、庁内の他システムが電子決裁を利用できるように双方向データ連携に対応させている。加えて、大容量のデータを扱うことになるため、処理を分散してサーバに掛かる負荷を軽減した。

 「システム化のポイントは決裁処理の効率化と暗号化ソフトによる改ざんを防止した原本保証だ」と導入を行った富士通 神奈川支社公共営業部営業主任の大日方直樹氏。

電子化の推進

 自治体に限らず、企業のオフィス環境において、すべての紙文書が電子化され、最終的には紙がなくなることが理想である。しかし、横浜市では新規起案についてはこのシステムでカバーできるが、工事・建設図面といった大型の図面などについては紙媒体による管理をなくすことができず、一部で紙によるワークフローが残っている。ただ、電子化が進むことで、紙の使用量がどれだけ削減されたか、その効果が出てくるのはこれからだという。

 また、効率的に電子化を進めるにあたり、IPKNOWLEDGE文書管理の導入に合わせて、アドビ システムズの「Acrobat 7.0」を1万3000ライセンスも導入している。

 中村係長は、Acrobatの導入効果について「複数のアプリケーションで作成された種類の異なるファイル、例えばWordとExcelを1つにまとめることができるため、複数のファイルを添付する煩雑さを回避でき、添付文書の閲覧性も向上した」と指摘している。また、Acrobatには注釈機能があり、文書中に再確認のための指示や、誤字・脱字の指摘、注釈の挿入などを紙文書と同じ操作感で行えるのがメリットだという。

 横浜市の文書管理システムは2005年9月に導入されたばかりで、まだ職員に完全には定着していない。今後は、さらに活用を進めていく方針だ。

 最後に、中村係長は紙文書と電子化について「内部の文書は電子化を進めているが、外部から届くものは依然として紙が多い。また過去に作成された文書はそのまま紙で管理しており、マイクロフィルムで管理している情報も残っている」と課題も挙げている。

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