ごく平凡的な米国市民、wikiを立ち上げる

オープンソース・ソフトウェアという考え方を盲信していない平均的な資本主義者であってもオープンソース・ソフトウェアは有効に活用できる、という事例をお見せしよう。

» 2006年03月08日 14時14分 公開
[Tina-Gasperson,japan.linux.com]
SourceForge.JP Magazine

 ジョイ・ブルックス氏は、資本主義を信じるごく平均的な23歳の青年で、いわゆるsick freak(保守的なラジオ・ショーのホスト、グレン・ベック氏のファン)でもある。彼はマニアではないが、フリー・ソフトウェアは「平均的な人間が使えるソフトウェアを提供するにあたって多大な貢献をしている」と思っている。こうした見解の正しさはブルックス氏自らがつい最近証明したばかりで、そのきっかけは、大手コミュニティー・エンサイクロペディアの一つであるWikipediaに対してブルックス氏そのほかのベックファンがポストした投稿を同Webサイト管理者たちが立て続けに拒絶したことに、彼らが憤慨したことであった。ブルックス氏は、オープンソースの経験はそれほど深くはなかったが、Mediawikiのソフトウェアをダウンロードして必要な設定を施すと、Glennpediaという名前で自らのサイトを立ち上げたのである。

 ブルックス氏はアイオワ州デモインに在住し、Wells Fargoでのデータ入力を担当しているが、熱心なベック氏のファンでもある。ブルックス氏を始めとするベックのファンクラブのメンバーは、Wikipediaのベック氏のページにあった間違いとおぼしき記述の訂正を求めたところ、冷ややかな対応をされたことに腹を立てた。彼は「(わたしたちは)グレン・ベック氏に関するWikipediaの記事で門前払いにされている気がしました」と語る。「中には、記事の編集を禁止される人間もでてきたんですよ。例えば、ターニャ・ベックさんの名前をスペル・ミスしてるところがありましてね。彼女の名前はTanyaなんて綴らないことは、僕らの間じゃ常識だったのに」。問題の記事の更新ログを見てみると、ベック氏の信奉者と、彼らの中立性に疑問を抱いている人間の間で、コンテンツの書き換え合戦が繰り広げられていたことが分かる。Glennpedia創設のきっかけとなったのは、まさにこうした対立だったのである。

 Wikipediaの規約には、すべての記事は中立的な立場から記述されるべきである、と謳われている。Wikipediaの創設者であるジンボ・ウェールズ氏によると、こうした方針は「絶対的なものであって妥協の余地はない」とのことである。Wikipediaの管理者たちはこうした方針に従って記事の内容に目を光らせ、偏見的であると彼らが判断した記述については削除するという作業をし続けている。Wikipediaのベック氏に関する記事で論争が繰り広げられているのは、何を持って中立であるとするか、という点である。この記事については、ベック氏の「私自身のWebサイトよりも正確な経歴がまとめられており、(明らかに追加的な)まったく新しい真実が含まれている」という発言が引用されている。

 ブルックス氏は、ベック氏の記事を管理している人間は同氏のラジオ・ショーを聴いてすらいないのではないかという可能性に思い当たり、彼自身が定めるルールで運営されベックファンの手によって維持されるwikiを立ち上げることを決意したという。ブルックス氏は、必要なソフトウェアのダウンロードからインストールまでを自分自身で行った。「WordPressのインストールは前にやったことがあったので、そのときの経験が(Mediawikiの)インストールに取り組んだ時にも役立ちましたね。ただ、フォルダ別にアクセス許可を設定する必要がある点で、手順が少し異なっていたのかな。こうしたアクセス許可の設定には、手元にあったFTPプログラムが使えました。そもそもGlennpediaが世に出たのは、グレン・ベック氏に関するWikipediaの記事がきっかけだったのだから、このサイトもMediawikiをベースに構築して、同じ原則の下で運用すべきだと思ったんですよ」と語る。「サイトにあるすべての記事は、誰でも編集できます。アンチグレン・ベック派の加えた編集は大部分削除されるでしょうけど、事実に基づいて理にかなっているコメントは歓迎します」。

 Glennpediaは、昨年10月3日に運営開始されてから今日までに10万件のページアクセスと3000件のページ編集を記録しており、ブルックス氏によると約230件もの“筋の通ったコメント”やオリジナルの記事が投稿されているという。そのほかは、ユーザーが関連テーマをポストした場合や、討論および更新ログ用にトピックを肉付けするためのホールディング・ページとされている。

 ブルックス氏自身は自らをこう評している。「オープンソースの世界とは無関係な、平均的なごく普通の人間ですね。オープンソースという世界は完全に賛同していますけど、僕自身は心の底からの資本主義者ですし。自分の開発した製品を販売して対価を得たいという人間がいれば、それはそうすべきでしょう」。

 オープンソース・ソフトウェアへの課金が慣行として認められている点について、彼は「僕は難しい説明は苦手だし、そうしたことの正確な定義もよく知らないんですよ。ただアウトサイダーとしての感想なんですけど、オープンソースというのは、オリジナルの作者が自分の作品の自由な閲覧や編集を歓迎して、プログラムやコードとかアイデアなんかを再リリースするのを奨励するってことじゃないのかな。もしも製品の閲覧や編集とか再リリースについて作者に料金を支払うことになったら、それはもう真の“オープン”とは言えないですよね」と語っている。

 自らをアウトサイダーとする人間からの賛否両論を呼びそうな意見であるが、フリーソフトウェアのユーザーであるという紛れもない一点において、ブルックス氏もこのコミュニティーの一員であることは間違いがない。確かなことは、オープンソース・ソフトウェアという考え方を盲信していない平均的な資本主義者であってもオープンソース・ソフトウェアは有効に活用できる、という事例をGlennpediaが十二分に立証したという事実である。

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