WPFがデザイン業界に与えるインパクト国内初イベント、REMIX開催

10月26日、東京国際フォーラムで開催された「REMIX TOKYO」。その締めくくりとして行われたパネルディスカッション、「Vista時代におけるユーザーエクスペリエンス技術の選択」では、デザイン面およびビジネス面からVista登場の影響が語られた。

» 2006年10月31日 11時30分 公開
[下村恭(ハンズシステム),ITmedia]

 デザイン/テクノロジパネルとして行われたこのパネルディスカッションでは、デザイナーの立場から見たWindows Presentation Foundation(WPF)、またVistaやWPFという新しいテクノロジーがデザインやビジネスにどのような影響を与えていくのかといった点について、「表現力の向上」「Webと連係したアプリケーション作成の容易さ」「デスクトップとWebとの連動」という3つのポイントでディスカッションが行われた。

 ディスカッションのモデレーターは、MdN 月刊web creators編集長の山口康夫氏、パネラーとして、エレファント・コミュニケーションズ 取締役 アートディレクターの水鳥雅文氏、ヴォイクスジャパン CEOのJean Pierre Minamizaki氏、キッズプレート 代表取締役の茂出木謙太郎氏が登壇した。

左から茂出木謙太郎氏(キッズプレート 代表取締役)、Jean Pierre Minamizaki(ヴォイクスジャパン CEO)、水鳥雅文(エレファント・コミュニケーションズ 取締役 アートディレクター)

 まずはパネラーから、Webサイトのデザインという面から考えた場合、一般的に語られている姿の「Web2.0」では貢献度がそれほど高くならないという指摘があった。確かに、Web2.0によって技術的にユーザビリティを向上させるなどの進歩は見られたものの、「Web2.0ではデザイン面、表現力という点において限りがある」(茂出木氏)と指摘する。Ajaxに代表されるようなWeb2.0技術は、あくまでもWebブラウザ上のテクノロジーであり、通信など裏方の部分に貢献するものという側面が強い。つまり、Web2.0の技術範囲の中では、Flashなどを使って見栄えを変えても、バックエンドのDBからデータを取ってきて分かりやすく見せるというだけのデザインになり、結局のところどれもこれも似たようなWebサイトのデザインになってしまう。これを水鳥氏は「Webデザインがパーツ化してきている」と指摘する。

 これがVistaやWPFの登場により、今までWebを舞台に実現されてきたようなユーザーエクスペリエンスを、ブラウザから脱却してさらにリッチな体験として提供することができるようになる。これからは、Vistaのサイドバーガジェットに代表されるような、Webとデスクトップアプリケーションを使った「ブラウザを捨てた」表現方法が主流になっていく。つまり、WPFによる表現力の向上が新たなユーザーエクスペリエンスの提供へとつながり、ビジネスチャンスとなっていくのだ。

WPFの利用と費用対効果

 一方で、Webデザインにおける問題点として費用対効果という側面がある。見る者にインパクトを与えるWebデザインをしたければ、Flashなどの技術を駆使するといった苦労を強いられる。これに対し、WPFを使用したデザインでは、さまざまな表現を簡単に行うことができるという。これは、苦労に見合った結果を得られるか、つまり、費用対効果の面で有利かどうかということで、ビジネスを考えた場合に重要な要素となる。

 また現状では、Webサイトを作成しようとするとPHP、SQL、JavaScriptなど複数の言語を習得しなければならない。だが、「WPFの登場により、C#だけでフロントエンド、ミッドウェア、バックグラウンドすべてを開発できる」(Jean氏)という指摘もあった。これは従来のCSS+HTMLをベースとしたシンプルWebデザインを否定するものではないが、費用対効果を考えた際に、効率的な開発の1つの方法として考慮されるべき点だろう。

 Vistaの登場で新しいビジネスモデルが生まれることにも注目される。今までは、いかに自分のWebサイトにアクセスしてもらうかを競っていたが、サイドバーガジェットのようにWebと連動したアプリケーションがVistaの登場で一般化してくると、いかに自分のアプリケーションを使ってもらうかという別の競争になっていく。ここでは、いかに使いやすく見やすい、インパクトのあるアプリケーションを構築できるかという表現力が問われるようになる。こうした観点から、次世代のWebにはデザイナーやプログラマーだけでなく、映画監督のような立場の人材が必要となる。デザイナーが考案したデザインをプログラマーが実現するというだけでなく、ユーザーインタフェースを含めた全体を考案する立場の人間も必要になってくるということだ。

ガジェットによるユーザーアクションへの期待

 しかし、プロモーションの立場から見ると、「表現力はそれほど重要でない」(茂出木氏)そうだ。ガジェットでいえば、見つけてダウンロードしてくれれば終わりではなく、その後のアクションに結びつかなければ意味がない。今までのシンプルWebデザインでは、ユーザーを引き付けるまでが限界だった。WPFを使ったガジェットは表現力も高く、アプリケーションとしての柔軟性も持ち合わせている。そのため、シンプルWebでは実現し得なかった、アプリケーションとしての工夫が、プロモーションの目的であるユーザーのアクションへ有効に働くようになるということだ。

 WPFの登場は「6〜7年前のFlashと同じ」(山口氏)状況を作るという。Flashが出た当初、「Flashできます」というだけで仕事があったように、WPFでもしばらくは同じ状況が続くだろう。しかし、WPFで何ができるかという特徴がなければ生き残れない。逆に考えれば、「WPFでこういうことができる」「こういうアイデアを持っている」と主張できるチャンスが来たともいえる。「Webデザイン業界は技術主導」(山口氏)というように、紙のデザインからWebのデザインへシフトした際に、取り残されてしまったデザイナーがいたように、新しい技術に対応して行かなれば生き残れない。Flashが一般的になってからFlashの勉強をしていたのでは遅かったのと同じように、早いうちからWPFに対応しておくべきということだ。

 このパネルディスカッションでの4人の共通する認識は、「WPFにはWebをRebornさせる(生まれ変わらせる)ポテンシャルがある」というものだ。従来のシンプルWebがなくなるわけではないが、WPFにより従来の枠を超えた何かが可能になっていくだろう。OSに組み込まれるWPFが普及しないとは考えにくい。これをチャンスと捉えるか、対岸の出来事と思うかで、将来が変わってくるのかもしれない。

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