カブロボ、飛翔――2007年夏、ロボットが市場を席巻する

来年の夏、ロボットが市場を席巻するかもしれない――「スーパー・カブロボ 第1回大会」の表彰式が東京証券取引所で行われ、優れたアルゴリズムを備えたロボットの試験運用が開始されることになった。

» 2006年12月19日 01時45分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 来年の夏、ロボットが市場を席巻するかもしれない――「スーパー・カブロボ 第1回大会」の表彰式が12月8日、東京証券取引所で行われた。

 過去2回開催されているカブロボコンテスト。もともとは、早稲田大学のプロジェクトとしてスタートした同コンテストは、アルゴリズムトレードの技術的向上と普及に貢献し、かつ同コンテストの成果が一般投資家の投資活動に貢献することを目的に開催されてきたが、今回からスーパーの文字が冠され、いよいよ実際の市場での実運用が視野に入ってきたことを思わせる。

右肩があがっている 本大会からマスコットキャラも登場。分かりづらいが、微妙に右肩が上がっていることにお気づきだろうか。「相場だけに右肩上がりにした」とは後述する松本氏の弁

 このコンテストは、Javaでプログラミングしたロボットを用い、株の売買を仮想証券会社に対して自動で行い、その運用成績やロボットの性能を競うもの。Javaプログラミングに不慣れな方でも、Webブラウザを使ってチャート分析型のアルゴリズムを設定できるような汎用のベースロボットが提供されている。

 本大会の全参加者総数は過去2回の参加人数の合計(約5000人)を上回る6264人。下は7歳から上は94歳まで、さらには海外からも69名が参加しての大賑わいとなった。2006年8月1日から2006年12月1日の期間開催され、各参加者は東証の出来高上位銘柄から、コンテスト実行委員会が選定した500銘柄を対象とし、仮想資金5000万円を運用した。加えて、3カ月間という短期間での評価だけが選定の対象とならないよう、大会期間中の運用結果だけでなく、過去の実データに基づく長期バックテストやアルゴリズムの評価なども行われている。

大会委員長を務めた早稲田大学理工学術院教授の村岡洋一氏。幅広い世代から、特に若い世代からの参加も多かったことを喜びつつ、「こうした大会の中で培った技術をほかの分野に広げてほしい」と話した

 今回審査委員長を務めたのはマネックス証券代表取締役CEOの松本大氏。松本氏は「オープンな形での知的チャレンジはきわめて現代的な手法」と本大会を高く評価する。しかし一方で、自身がソロモン・ブラザースやゴールドマン・サックスなど、11年にもおよぶ厳しい環境で培ってきた経験から「本当にプログラミングによるアルゴリズムでいい運用ができるのか」という漠然とした不安もあったことを明かした。

松本氏 「銘柄選択は人間もロボットも大差ない。しかし、いいロボットはリスク管理に優れている」と松本氏。さらに、TIME誌のPerson of the Yearで「You」が選ばれたことを引き合いに「市場でも個人が集まって知識を共有していく時代がくる」と話す

 本大会は、松本氏が「アカデミックと現実の融合」と話すよう、実際の運用を視野に入れたものとなっているのが興味深い。マネックス証券が特別協賛として本大会を多面的に支援したのもそうしたことが背景にある。今回最優秀ロボットとして表彰された10体は、2007年1月中旬から6月末まで、それぞれ5000万円、計5億円の運用を実際に行う。その先には、こうした優れたアルゴリズムを持つロボットを金融商品として提供することが視野に入れられており、商品化に向けた試験運用という格好だ。ロボット開発者は、実運用で収益が出れば、投資信託のファンドマネージャーのように報酬を得ることができる。このような事情もあり、アルゴリズムなどの詳細については聞けなかった。

 「2007年の夏をめどにロボットによる運用サービスを提供する予定」(松本氏)

 本大会で資産評価額で1位となった確率理論研究所所長の伊本晃暉氏は5000万円を5954万円、利回りで言えば19.09%に相当する収益を上げている。同氏は投資経験からデータマイニングにより29の必勝パターンを抽出してそれをプログラミングしたというが、伊本氏のロボットは最優秀賞に輝いたロボットの中で唯一の汎用ロボットであることは特筆すべきであろう。過去の大会では年利332%という数字も出ているが、これはかなり限定された環境下であったためで、ロボットが実際に用いられた場合のパフォーマンスとしては、本大会の方がより現実味があるといえる。ちなみに、ポートフォリオがリスクに見合った運用実績を上げているかを判断するための指標「シャープレシオ」で見ると、竹内広司氏の4.52がもっとも高い値となっている(伊本氏は2.19)。

「最後の3日間ほどでポンと抜け出し資産評価額で1位となりました」と話す確率理論研究所所長の伊本晃暉氏

 会場を沸かせたのは、住井一宏氏。同氏は二足歩行ロボットによる格闘競技大会「ROBO-ONE」の初心者入門コースであるJクラスで3度の優勝を遂げていることでも知られるが、表彰台には同氏と夫人が操作するロボットが先に上がり、場を和ませた。

住井一宏氏。手にはロボットが

 住井氏が作成した、移動平均からの乖離を独自指数化し、RCIも活用して対象銘柄を選定する利益優先型のスイングトレードロボットは、9年間のバックテストで5000万円を4億円以上にまで増やしている。そんな同氏は、ROBO-ONEとスーパーカブロボに共通項はあるかという記者の質問に、「ないと思っていたが、1つだけ見つけた」と話し、続けて「地道な作業」であると笑った。

 また、優秀アルゴリズム賞には、連続続落をトリガにし、売買タイミングを決めるロボットを作成した溝入優一氏、ベイズ理論を取り入れた鳥海不二夫氏、変わったところでは、八卦を用いる独自のアプローチを採った遠藤嗣業氏など、18体のロボットが選出された。ちなみに、第1回のカブロボコンテストで優勝した倉林俊成氏も優秀アルゴリズム賞に選ばれている(関連記事参照)

 なお、アイティメディアもこのイベントに協賛しており、最優秀賞にも輝いた池田隆二氏、坂本透氏、城内孝法氏の3名にはアイティメディア特別賞も授与された。奈良県奈良市にあるコンピュータ専門学校「ラソーンeビジネス専門学校」でアルゴリズムなどを教えている池田氏は、カブロボを教材にして指導しているという。来春の第2回スーパー・カブロボ・コンテストには、先人の知識を吸収し、さらに進化を遂げたロボットたちが大挙してくるのだろうか。

 第1回のカブロボコンテストの際も、当初予期していなかったユーザー数にブレードサーバ(最終的には7台)を活用して柔軟に対応するだけでなく、プログラミングなどについてのツールや情報を提供し、いわば裏方として活躍する日本IBM。今回もブレードサーバを中心としたシステムを構築し、その上でWebSphereとDB2(一部オープンソースソフトウェアも使用したという)を稼働させていたという。来春には第2回大会も予定されるスーパー・カブロボ・コンテスト。これまでは1日2度(前場、後場)しか注文できなかったが、これがリアルタイムで行えるようになる予定で、日経平均インデックス、FX、CXなどの取り扱いも視野に入れている。こうした大量のデータとさらに増えるであろう参加者にレスポンスよく対応するシステム構築を今後も期待したい。

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