MS、エンタープライズサーチ製品のリリース延期で戦略に影?

デスクトップとエンタープライズ、そしてWebの検索を一度に実現するクライアント製品のリリースが延期された。また、特定の知識を持った人物を検索するための機能として、SharePoint Server向けに予定されていた機能は、サポートなしのアドオンとして提供されることになった。

» 2007年02月15日 07時00分 公開
[Matt Rosoff,Directions on Microsoft]
Directions on Microsoft 日本語版

 Microsoftが2006年遅くに予定していた2つのエンタープライズサーチ製品のリリースが延期された。リリース自体がキャンセルされるか、あるいは当初の計画と大きく異なる形でリリースされることになりそうだ。1つは、デスクトップとエンタープライズとWebの検索用に統一のインタフェースを備えたデスクトップクライアント。このクライアントのリリースは無期限で延期されたが、いずれWindowsの一機能として提供されることになりそうだ。2つ目は、特定の知識を持った組織内の人物を検索できるようにするためのSharePoint Server(SPS)2007向けの機能。こちらは、サポートなしのアドオンとしてリリースされることになった。この機能はおそらく最終的には、ほかのOffice製品に組み込まれることになるだろう。こうした変更は、Microsoftの検索製品の分裂具合を示すと同時に、Googleや英Autonomyといった検索大手との競争戦略の不明確さを浮き彫りにしていると言えそうだ。

統一された検索クライアント

 Microsoftは2006年半ば、社内ネットワーク(ファイルサーバ、イントラネットサイト、社内アプリケーションを含む)、ローカルPC、インターネット上に保存されたデータを一度に検索できるようにするためのデスクトップクライアントを、Casinoというコードネームで開発中であることを明らかにした(Microsoftは対外的には、OneView、Windows Live Search for the Desktop、Windows Search Center、Windows Search 4など、幾つか異なる名称でこのクライアントを説明していた)。

 Casinoは、ネットワークリソースの検索にはSharePoint Server(SPS)2007を必要とし、当初の計画では同製品とほぼ同時期にリリースされる予定だった。また、Windows Vistaでのデスクトップ検索では、同OSに組み込まれた検索技術を使用、そしてWindows XPでのデスクトップ検索では、まず先にWindows Desktop Search(WDS)クライアントを別途インストールすることになっていた。インターネット検索については、Windows Live Search(以前はMSN Searchと呼ばれていた)を使用することになっていた。

 Microsoftは2006年12月、Casinoを一般向けにリリースするという当初の計画を変更し、テストとフィードバックのために2007年に一部のエンタープライズ顧客向けに限定的にリリースすると発表した。

 Microsoftによると、最終的にはネットワーク、デスクトップ、インターネットの全リソースに渡って検索クエリを一度に実行するための製品を、何かしらの形でリリースする方針という。ただし、そうした機能を自動更新やサービスパックを通じてWindows Vistaのインタフェースに追加するのか(その場合、独禁法をめぐる懸念が生じる)、Windows VistaとWindows XP向けにWindows Desktop Search(WDS)クライアントの次期バージョンとしてリリースするのか、あるいは当初の計画どおり単独のクライアントとしてリリースするのかについては、まだ決定していない。

電子メールのスキャンで情報を得る?

 Knowledge Network(KN)は、SharePoint Server(SPS)ユーザーが特定の知識を持った組織内の人物を検索できる機能で、当初はSPS 2007への統合が予定されていた。

 具体的には、KNは、SPSを導入している組織内のユーザーが送受信した電子メールをスキャンすることで、SPSの既存の人物検索機能を拡張する。例えば、「Orion」という製品に関するメールを頻繁に送信しているユーザーがいた場合、KNはSPS上のそのユーザーのプロファイルに自動的にその用語(Orion)を追加し、この人物がそのトピックに関する詳しい知識を備えていることを組織内のほかのユーザーにも分かるようにする。さらにKNは、SPSにソーシャルネットワーキング機能を幾つか追加する。例えば、組織の内部/外部を問わず、特定の人物と面識のある同僚を検索する機能などだ。KNでは、ユーザーはプライバシー情報を細かくコントロールできる。例えば、社外の仕事相手をマネジャーのみに公開するか、あるいはSPSワークグループのほかのメンバーにも公開するかといった点なども細かく管理できる。

 Microsoftは2006年12月、KNをサポート付きのSPS 2007の機能としてではなく、サポートなしの無料のアドオンとしてリリースする方針を発表した。Microsoftは、このアドオンをCommunity Technical Preview(CTP)として提供する。つまり、一般に広く公開されるが、製品サポートサービスや保証ではカバーされず、また、将来に渡って提供される保証もないということだ。

 同社はこの変更の理由について、「メールクライアントやメールサーバの一部として導入するわけでもないのに、メール内容をスキャンする製品」を導入することに対するIT管理者の懸念に応じたものだと説明している。Microsoftによると、将来的には、KNか、あるいはそれと同様の機能がほかのOffice製品に統合される可能性もあるという。その場合、最もふさわしい候補となるのはOutlookだろう。ただし、同社はまだそのスケジュールやリリースの詳細については明らかにしていない。

分裂

 こうした変更は、Microsoftの検索戦略をめぐる、かねてからの問題を浮き彫りにしている。その問題とは、Microsoftは検索機能を「それぞれの製品にそれぞれの方法で実装するもの」として扱っているため、同社の検索戦略を全社的に連携させる役割を担ったチームが1つもないということだ。

 例えば、Casinoを開発したのはオンラインサービスグループ(以前はMSN部門と呼ばれていた)だが、同グループは、MicrosoftがGoogle検索エンジンへの対抗策として最初に手がけたデスクトップ検索製品も開発している。ところがMicrosoftは、Windows Vistaにデスクトップ検索を統合するに際し、当初Casino向けに計画していた統一検索インタフェースのリリースに関しては、今後、Windowsエンジニアリングチーム(上級副社長のスティーブ・シノフスキー氏が統括)に一任することを決めている。一方、Windows VistaなどMicrosoftの各種製品で使われているコア検索技術のほか、ネットワーク検索については(ただしWeb検索は除く)、SharePoint Server(SPS)を担当するビジネスポータルグループが開発の責任を担っている。

 こうした分裂はMicrosoftのエンタープライズサーチのロードマップを曇らせ、ひいては、エンタープライズサーチ分野で既に地位を確立している英AutonomyやノルウェーのFast Search & Transfer(FAST)といったライバル各社との競争を一層難しくするだろう。さらに最近は、GoogleやYahoo!といったコンシューマーサーチ企業も、Web検索市場での強みを生かして、エンタープライズ市場への進出を図っている。いちばん最近では、Yahoo!が2006年12月に、IBMのOmnifindをベースとした無料検索ツールの提供で同社と提携を結んでいる。Microsoftも明確なロードマップを示し、製品を確実にリリースしていかないことには、顧客企業は同社のエンタープライズサーチ機能が約束どおりに提供されるかどうかを不安に思い、他社の製品に頼るようになってしまうかもしれない。

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