本来なら日本で生まれるべきもの!?「Second Life」からの示唆 第2回

デバイスやサーバービジネスの需要増大以外にも、「Second Life」が日本のデジタル産業の今後に大きな影響を及ぼす。だからといって、喜んでいるだけでは悲しい。ウェブを超える仮想世界の誕生地は、「日本」であってほしかった――。

» 2007年02月22日 07時00分 公開
[成川泰教(NEC総研),アイティセレクト]

ビジネス創造の期待はもっとある

 一層洗練されたサーバービジネスでもある(2月20日の記事参照)という「Second Life」は、またネットワーク領域にも大きな需要を喚起する。実際にアクセスしてみると分かるが、建物などの街並みやそのインテリア、さらに行き交う人々や音楽などはすべてネットワークを経由して送られてくる。つまり、快適に楽しむにはかなり高速の回線が必要になる(※1)。加えて、利用者のプロフィールや行動履歴などの個人情報だけに限らず、このサービスの大きな特長となっている、RMT(※2)が可能な仮想通貨による商取引や資産運用などの金融取引が組み込まれているという点からも、広い意味でのセキュリティの問題が極めて重要視されている。

 このように考えると、Second Lifeには、現在議論されているNGNのようなサービスを統合した新たなネットワークモデルや、インターネットの中立性のようなテーマも包含した、幅広い領域において新たなビジネスを喚起する役割が期待できるのである。

デジタル産業政策に一言

 多くの期待を膨らませてくれるSecond Lifeであるが、初めてこのサービスを目にしたときに、そうした期待の一方で抱いた、ある種無念さのような感情はいまだに忘れられない。それは「なぜこれが日本から出てこないのか」ということだ。

 3次元CGの仮想世界をネットワークで提供するという発想は、決して新しいものではない。インターネット黎明期の10年前の日本でも同様のトライアルはあった。例えば、クリエイターの高城剛氏らを中心にしたフューチャー・パイレーツの「フランキーオンライン」や草の根BBS「タイガーマウンテン」などは、さまざまな点で現在のSecond Lifeに通ずるものがあった。いずれもインターネットへのゲートウェイを設置した途端、独立した仮想世界から単なるコンテンツサーバーへと主客を転倒させて消滅した。ウェブの流れはそれほど強かった。

 しかし、仮想世界はオンラインRPG(※3)に引き継がれ、インターネットを通じた共同作業のマネジメントや仮想通貨に基づく経済圏の形成など、オンライン社会も実社会同様の行動モデルが芽生えるまでに静かに発展した。インターネット上のアプリやサービスを可視化するワールドと従来のウェブに代わる新たなインタフェースというSecond Lifeの2つの側面(2月20日の記事参照)という意味において、仮想世界は成熟したウェブの世界を再構築し、インターネットの世界で新たなビジネスプラットフォームを生み出す大きなチャンスだったが、日本での取り組みは政策的な後押しもなく、中途半端なままであった。

 日本のインターネット産業は成長しているが、ウェブというプラットフォームで立ち遅れたのは事実である。最近になって政府による情報検索のプロジェクトが立ち上がったものの、大きく先行する米国勢との差別化については抽象的な戦略しか描かれていない。そこに出現したのがSecond Lifeだった。

 日本がゲームやアニメーションなどのコンテンツ産業の担い手として注目され、かつてはクリエイターを中心としたトライアルなどがあったにもかかわらず、オンラインRPG以降の仮想世界の原動力は米国や韓国、中国などに移っている。ち密で繊細なグラフィックスが日本のお家芸であることは認めるが、Second Lifeが目指す、ウェブに替わる新たなプラットフォームという次元の戦略は、日本からも出てくるべきではなかっただろうか(「月刊アイティセレクト」掲載中の好評連載「新世紀情報社会の春秋 第十二回」より。ウェブ用に再編集した)。

なりかわ・やすのり

株式会社NEC総研 調査グループチーフアナリスト

1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手掛けている。趣味は音楽、インターネット、散歩。


(※1)Second LifeのサイトではケーブルかDSL を必須としている。
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(※2)Real Money Tradingの略。仮想通貨をドルなど実際の通貨と交換すること。
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(※3)Role-playing Gameの略。割り当てられたキャラクターを操作して楽しむゲームのこと。
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