世界一のネット企業に躍り出るまでグーグルの2006年を振り返って 第1回

2006年は、インターネットが産業基盤として定着し、「Web2.0」に象徴されるように新たなフェーズに入った。そんな中、グーグルは世界最大のインターネット事業者の地位を確かなものにした。その成長戦略から分かることとは――。

» 2007年02月08日 07時00分 公開
[成川泰教(NEC総研),アイティセレクト]

IT業界にとっても転換点だった1年

 企業業績や経済統計を見る限り、2006年はIT業界にとっておおむね良好な一年だった。ただ、国内の景気は経済産業省による戦後最長の景気拡大「いざなぎ越え」達成との見方があるが、ビジネスの現場に携わる人間にとって、その実感は少ないのが実際のところだろう。景気が数字の上で拡大を続けたことは事実かもしれないが、六十数カ月に及ぶその期間に、日本経済は多くの新しい困難に直面した。ゼロ金利とデフレなどはその典型だ。企業の存続を維持しつつ、そうした構造変化への対応に忙殺された産業界に、景気拡大の実感が薄かったのは当然かもしれない。

 変化は現在もなお進行中だが、困難を克服した企業が新しい時代の波をとらえ、成長する様が明確になった2006年は、バブル崩壊以後の日本経済にとって一つの区切りとなったことは間違いない。

 情報処理という普遍的で複雑なニーズに晒され、多くの人間や企業が参入し技術革新という競争にしのぎを削るIT産業は、ほかと比較して特に変化が激しい。しかし、この業界にとっても2006年は、中長期的かつ地球的視点で非常に大きな転換点だった。それは商用化から十年余りを経たインターネットが産業の基盤として定着し、利用する側においてもその意義が等しく認識されるようになったからだ。それを象徴する「Web2.0」は、インターネットの真価を前提にした時代の始まりを表す言葉として正しく認識されるべきである。

 そして、このトレンドの中核に位置するのが米国のグーグルである。

独走を支える広告事業とさまざまなサービス

 グーグルは2006年の1年で、名実共に世界最大のインターネット事業者に抜きん出た。第3四半期までの実績とアナリスト予想などから判断すると、総売上高はアマゾン・ドットコムに並ぶか、それを上回る水準に達するのはほぼ確実である。ヤフー、イーベイを加えた米国の大手インターネットサービス4社の中では、グーグルを除く3社がいずれも業績を伸ばしているものの、売上成長の鈍化や利益率の低下が目立ち始めたのに対して、グーグルだけはほとんどの指標で成長をさらに加速させている。このことは、同社がインターネットとITの事業機会をより深くとらえていることを表している。

 グーグルの売上の99%が広告であることに変わりはないが、その内容にはやや変化が出てきている。海外市場の売上が2倍近い伸びを示したこと、自社サイトからの売上がアドセンスをはじめとするグーグル以外のサイトからの売上よりも高い伸びを示すようになったことだ。単純に考えれば、欧州や日本などを中心に自社サイトでの広告収入が伸びたことになる。自社サイトでの売上には売上原価に相当する掲載サイト利用料が発生しないため、利益率が高くなるのだ。

 2006年後半には自社サイト以外からの売上を増やす手段として、人気サイトとの大型提携を相次いで発表した。SNSのマイスペース・ドットコム、ECのイーベイ、そして動画共有サービスのユーチューブである。ユーチューブについては、最終的に提携ではなく買収という手段に踏み切ったことは記憶に新しいところだ。

 グーグルは従来、メールや地図など主要なサービスを自社開発し、発表してきた。SNSについては「オーカット」というサービスを始めた。しかしながら、加入者数は依然として少なく、本腰を入れる気配はない。イーベイの決済サービス「ペイパル」と競合する「グーグル・チェックアウト」については、パートナーを増やすなどしていることから将来を有望視しているようにみられる。ただ、これに対するイーベイの警戒は当然のことながら厳重で、イーベイで利用可能な決済手段から「グーグル・チェックアウト」は除外されている。

 ユーチューブについては、類似のサービス「グーグルビデオ」を同時期にリリースしたものの、その勝負は2006年前半であっさりとついてしまった。ユーチューブは、グーグルが「グーグルビデオ」でやりたかったことを一足先に実現してしまったわけである。しかしSNSの場合とは異なり、買収という手段に打って出たことは、同社が描く今後の戦略におけるプライオリティを考える上で非常に興味深いものであるといっていいだろう(「月刊アイティセレクト」掲載中の好評連載「新世紀情報社会の春秋 第十一回」より。ウェブ用に再編集した)。

※本稿の内容は特に断りのない限り2006年12月現在のもの。

なりかわ・やすのり

1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手掛けている。趣味は音楽、インターネット、散歩。


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