グーグルとアマゾンはソフト開発技術が核にインターネットサービスが拓く新世紀情報社会 第2回

21世紀という新世紀に出現した、新しい情報社会の成長を見る上で、ヤフー、グーグル、アマゾン・ドット・コム、イーベイといった、米国の巨大インターネットサービス事業者の戦略を確認しておくことは重要だ。ヤフーは、メディア融合を着実に進めていることは前回触れた。それに対し、グーグルやアマゾンはソフトウェア開発をその中核に据えている――。

» 2006年06月08日 08時00分 公開
[成川泰教(NEC総研),アイティセレクト]

IT企業の枠を超えるグーグル

 2005年は、グーグルにとって話題に事欠かない1年だった。象徴的だったのは、同年6月に発表された「Google Earth」だろう。日本で一般公開された場に集まった500人ほどの関係者の間にあがったどよめきと熱狂は、1990年代半ばにシリコングラフィックス社の展示会で体験した、デジタルハリウッドで感じたものに似ていた。ビジュアル面の効果はもちろんだが、インターネットサービスのデモでこれほどまでにエモーショナルな反応を人々から引き出したのは、このプログラムがいろいろな意味で、同社のソフトウェア開発とビジネスの力量を雄弁に物語っているからであろう。

 現時点で彼らが情報社会における台風の目となっていることは間違いない。次々と新しいサービスを打ち出し、その都度示される方向性は、確かにいま最も現実味をもったものだと思う。しかし、それをもって情報社会の実体とするのは、まだいささか早計にも思える。それについてはまた別の機会に考えることとして、差し当たって彼らの破壊的ともいえる影響力は、ソフトウェアを中心にしたIT産業で、そしてメディア産業においても、大きな構造変化を生み出すのではないかと考えられる。

 「Google Earth」に比較すれば地味だったかもしれないが、05年のグーグルで注目すべきもう1つの出来事として、IBMとサン・マイクロシステムズが、ソフトウェア領域で相次いでグーグルとの提携を発表したことがあげられる。ITシステムの世界における、ビジネスとコンシューマの融合を示唆するこの出来事は、今後のIT産業に起こる変化を象徴しているといっていいだろう。IT市場調査会社のIDCも、毎年末に発表している市場展望の中で、06年の重要なキーワードとして「Google効果」を取り上げている。

 グーグルは、自らの原点をテクノロジー企業とし、とりわけソフトウェア技術が企業活動の源泉であるとしている。05年の総費用に占める研究開発費の比率は実に35%に達し、マーケティングの費用を上回るに至った。にもかかわらず、それを支える売上の99%は広告収入である。ソフトウェアを事業の主軸としていながら、パッケージ販売やライセンス収入はほとんどないのである。

 こうしたビジネスモデルが意味する「サービスとしてのソフトウェア」というトレンドは、今後のIT業界において極めて重要なテーマとなるだろう。

リアル社会とネット技術の融合を目指すアマゾン

 アマゾンはインターネット企業の代名詞として日本でもよく知られた存在である。しかし、日本語のサイトで提供されるサービスだけで判断すると、この企業のもつ本質的側面は十分に見えてこない。彼らのもつ先進的なサービスの多くは、現時点でも英語のサイトを中心に展開されているからだ。

 グーグルと同様にアマゾンは事業戦略の根幹を支えるものとして、ソフトウェア開発の重要性を第一に掲げている。そのための投資の重要性については常に株主に訴え続けている。既にインドなど世界の数カ国に開発センターを擁しており、ソフトウェア開発への投資は近年急激に増加する傾向にある。

 アマゾンが独自の検索エンジンプロジェクトとして取り組んでいる「A9.com」では05年、さまざまな試みが発表された。なかでも、米国の主要都市の地図情報に路上から撮影された街頭写真を一体化させたローカルサーチは話題になった。これを利用すれば、ニューヨークやロサンゼルスの主要な通りをあたかも実際に歩いているかのように散策することができる。地域の情報が、商店を単位にまとめられていることからも分かるように、彼らが「Google Earth」とは別の視点からリアル社会とインターネットの融合を目論んでいることは明白である。

 ほかにも、書籍の中身を検索できるサービスやサイト上での独自の映像番組の配信などを実施している。このようなコンテンツとの関係を強化する戦略は、パッケージメディアのECを先導する同社らしい取り組みだ。アフィリエイトプログラムや商品レビューをはじめとする、最近話題のCGM(Consumer Generated Media)の活用でも業界をリードしている。

 05年最終期は業績が振るわず株価が下落したが、同社の成長ポテンシャルとなる小売に占めるEC比率はまだまだ拡大するだろう。商品単価の下落を上回る、利用者の獲得と利用頻度の拡大を実現する上で、ソフトウェアとサービスの開発はますます重要になる。従って、アマゾンを流通の革新者として語るとき、その革新性はITベンダーとしての側面からもたらされていることを忘れてはならない(「月刊アイティセレクト」掲載中の好評連載「新世紀情報社会の春秋 第一回」より。ウェブ用に再編集した)。

成川泰教(なりかわ・やすのり)

株式会社NEC総研 調査グループチーフアナリスト

1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手がけている。趣味は音楽、インターネット、散歩。


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