ソフトウェアサービスは人間に「超能力」をもたらしたインターネットサービスが拓く新世紀情報社会 第3回

メディア融合を進めるヤフー、ソフトウェア開発を基本戦略とするグーグルとアマゾン・ドット・コム。それに対し、イーベイのコアコンピタンスはECのプラットフォーム確立にある。このような、米国の巨大インターネットサービス事業者4社の2005年の動きを振り返ると、インターネットは「情報社会」の実現に向けて大きく前進していることが分かる。その中で、従来のIT企業はソフトウェアサービスにビジネスモデルを転換している。そして、人間に「超能力」をもたらしている。

» 2006年06月12日 08時00分 公開
[成川泰教(NEC総研),アイティセレクト]

新世紀商業プラットフォームを確立したイーベイ

 インターネット上での個人間商取引(いわゆるオークション)を事業の出発点としているイーベイは現在、世界で約1億7000万人の会員を擁する。年間5兆円に及ぶ売買取扱高は、小売業の世界ランキング第8位に相当。出品者は個人だけでなく多くの中小事業者にまで及び、その商材は衣料や書籍から自動車、不動産まで幅広い。収益基盤は、そうした商取引から得られる手数料である。

 ただ、日本に拠点を置いたサービスはしておらず、実際に利用している日本人の数は、ヤフーやグーグル、アマゾンと比べると少ない。そのため、インターネットビジネスに携わっている人を除いて、この企業の実体を十分に認識できている人は意外に少ないだろう。

 イーベイのビジネスで重要な位置を占めているのは、世界最大規模の電子マネーシステム「Paypal」である。これは、インターネット上に開設した専用の口座間であれば、メールアドレスと金額を記入するだけでお金のやり取りができるものだ。口座数は8700万、年間決済額は約3兆円にもなる。2005年に日本に誕生した世界最大規模のメガバンクで約4000万口座というから、その大きさはけた外れだ。また決済の領域でも、ベリサインの決済ゲートウェイ事業を買収するなど、事業者向けを中心とした強化が進められている。

 そして同年、業界をあっといわせたのがイーベイによるインターネット電話会社スカイプの買収だ。3000億円近い買収額もさることながら、「なぜイーベイが…」という驚きは、一部のアナリストから強い疑念となって現れた。スカイプは「通信キャリアの破壊者」というレッテルが強すぎただけに、その反応は理解できるが、コミュニケーションの新たな付加価値を商品取引というアプリケーションとともに開拓するという両者の合意は、非常に斬新かつエキサイティングな判断だったと思う。

 イーベイのいう「3つのNo.1プラットフォーム」が、これからどういう相乗効果を示してインターネットに臨んでくるか。特にイーベイ自身も潜在的な巨大市場と認める日本での動きも含め、目が離せないところである。何らかの大型提携や買収が、日本で起こるかもしれない。

「超能力」の社会性

 前々回(6月6日の記事「ヤフーがけん引するメディア融合への流れ」)に触れたヤフー、前回(6月8日の記事「グーグルとアマゾンはソフト開発技術が核に」)のグーグルとアマゾンを合わせた4社の動きを振り返ってみると、05年は、インターネットがかつていわれた「情報社会」の実現に向けて極めて大きく前進した1年だったことがわかる。

 従来のIT産業は、デバイスからソフトウェアまで「サービス」というレイヤーを基準に再構築されようとしている。20世紀のIT産業をけん引した巨大企業、IBMやサンがグーグルとの提携に至ったのはその象徴であり、あのマイクロソフトも、ソフトウェアをサービスとして回収するビジネスモデルへの戦略転換に着手している。同社のビル・ゲイツ会長は、幹部社員に宛てたメッセージで「この戦いに勝てなければわれわれの将来はない」と言い切っている。この変化はおそらくもう止めることはできないだろう。

 そしてそのサービスは、人間に「超能力」をもたらした。宇宙から眺めた地球から特定の建物を探し出すことができ、異国の街の通りを、あたかも実際に歩いているかのように透視することができる。あるいは、ある言葉がどの書籍の何ページにあるかを見つけること、また海外にいる同好の仲間と出会い、簡単に趣味のお宝を売買することができるようになった。しかも、そのすべてが、いつどこにいても利用可能になりつつある。

 しかし、こうして姿を現した情報社会の一端は、これから「社会」としての妥当性を問われることにもなるだろう。破竹の勢いで進むグーグルだが、株式公開時に示した「ドント・ビー・イーヴィル」というテーゼは、早くもその社会的意味がぼやけつつあるように見える。それは、新しい情報社会の諸相が、光のあて方次第でさまざまな明暗を生むこと、そしてその判断は決して万人共通ではないということに由来する。

 次の新しいITビジネスの機会も、そこに多く眠っているはずだ。そうした問題への対応を誤れば、グーグルといえども窮地に陥る可能性は否定できないのである(「月刊アイティセレクト」掲載中の好評連載「新世紀情報社会の春秋 第一回」より。ウェブ用に再編集した)。

成川泰教(なりかわ・やすのり)

株式会社NEC総研 調査グループチーフアナリスト

1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手がけている。趣味は音楽、インターネット、散歩。


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