第1回 当然知ってるよね? オープンソースが意味するもの新入学生/新社会人応援企画第2弾(2/2 ページ)

» 2007年02月26日 08時30分 公開
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GNUとUNIX文化

 GNUとは、「GNU is not UNIX」の略で、(商用の)UNIXではないけれど、それと同等か代替となる環境を意味するソフトウェア開発プロジェクトだ。

 UNIXは1970年代に米国の電話会社AT&T*の研究所で開発されたOSである。数人の研究者が半ばプライベートプロジェクトのように作っており、「ゲームで遊ぶために作った」と言われるほど自由な雰囲気の中で開発されていた。

 UNIXは、電信電話事業を専業とするAT&Tで生まれたため、当初製品として発売されることはなかった。その代わりに「研究や教育用途に限る」という条件付きでソースコードが公開されていたのだ。当時は「ソースコードの公開されたOS」は珍しく、またシンプルな設計コンセプトや充実した開発環境から、次第に人気を集めていった。

 UNIXには、プログラミング言語としてC言語が搭載されていた。C言語は、UNIXを開発するために作られた言語のため、ユーザーはそれを使ってUNIX自体の不具合を修正したり、機能を追加することができた。また、あるコマンドを別のコマンドと自由に組み合わせて利用できたので、草の根のユーザーによってシンプルなツールなどが多数開発された。

 このような追加機能やツールは、UNIXのオリジナル開発者にフィードバックされ、UNIX自体を強化していったのだ。開発者コミュニティーの雰囲気が、Linuxと似ていたことは想像にかたくない。商用UNIXが登場する前に見られたオープンな開発体制は、Linux型開発の有効性を指摘した論文「伽藍とバザール」で説明されているバザールに似ている。UNIXはまさに、オープンソース開発のはしりと言えるだろう。

 1980年代から90年代にわたって、UNIXが並みいる競合OSを押しのけてコンピュータ業界を席巻したのは周知のとおりだ。1990年代後半からはPCの低価格化、高性能化に裏付けられたWindowsの躍進で勢いが衰えたが、UNIXを代替するLinuxの登場によって息を吹き返しつつある。

オープンソースの原動力

 では、UNIXやLinuxが躍進した理由はどこにあるのだろうか? 技術的な背景や社会的な要因もあるだろうが、1つにはユーザーが自由に開発、交流できる土壌があったという考え方が一般的になりつつあるようだ。「伽藍とバザール」において指摘されたのもまさにその点であった*し、米国の法学者ローレンス・レッシグ(Lawrense Lessig)教授が指摘するように、文化的・社会的発展を促進するためには、誰もが自由に利用できる共有地(コモンズ)が必要という考え方も多くの支持を集めつつある。

 2004年12月には、米国政府の産業政策に強い影響力を持つ競争力評議会が、「Innovate America」(通称パルミザーノリポート*)を発表した。この中では、「米国が21世紀も引き続き成長と発展を遂げるためには、イノベーション*が最も重要なファクターである」と提言している。具体的には、著作権や特許を強く保護することで産業を守るよりも、自由な競争によって産業を活性化させようという動きだ。

 2005年10月11日、日本においても「ソフトウェア特許はイノベーションを減退させやすい」という旨の中間報告が、経済産業省の研究会によって発表された。業界を揺るがす問題として、今後の行方が注目されている。

http://www.meti.go.jp/press/20051011003/20051011003.html

オープンソースで行こう!

 「何のためにオープンソースを作るのか?」という問いに、「ただ楽しいから」、あるいは「そこに山があるから」といった声もある。確かに「作る」ことに純粋な楽しみはあるだろうが、1人で楽しむだけでなく、ソースコードを通して学びが得られたり、共同作業することでイノベーションが起こることもあるだろう。

 ハードウェアの価格が下がりネットワークが普及したことによって、コンピュータを使ってできることの範囲が広がってきた。コンピュータのパワーを引き出すことで、今後はいままで以上にいろいろなことができるはずだ。そういったときに、オープンソースはきっと役立つだろう。

コラム2 「フリーソフト」とは何か

 本文では「フリーソフトウェア」と「オープンソースソフトウェア」を紹介したが、「フリーソフト」の方が耳慣れているかもしれない。前述の2つの概念は、いずれも米国で発祥したもので、日本においては直接の当事者という感覚を持ちにくい人も多いだろう(特にフリーソフトウェアについて)。

 一方で「フリーソフト」は、1990年代、日本のPC通信で生まれたものと言われている。当時のPC用OSでは商用/フリーを問わずアプリケーションが少ない状況で、ユーザーたちは積極的に情報やソフトウェアを共有していた。ただし、フリーソフトのコミュニティーではソースを公開していることは重視されず、あくまで商用ソフトウェアとの対比として「フリー」という言葉が使われている。

 本特集では、GPLに従った自由なソフトウェアを「フリーソフトウェア」と表現し、PC通信などをルーツに持つ無料のソフトウェアを「フリーソフト」もしくは「無料のソフトウェア」と称する。


第2回につづく

このページで出てきた専門用語

AT&T

日本でいえばNTTに当たる。公共性の高い事業を扱う。

「伽藍とバザール」において指摘されたのもまさにその点であった

LinuxはOSの中核部分をなす「カーネル」というソフトウェアだが、GNUにおいてもカーネルを開発する「Hurd」というプロジェクトがあった。しかし、それは何年たっても実用レベルにならなかった。なかなか日の目を見ないHurdと飛躍的に成長するLinuxを見比べて、レイモンド氏は「伽藍とバザール」を書くに至った。

パルミザーノリポート

報告書をまとめたIBMのCEO、サミュエル・パルサミーノ氏の名前からそう呼ばれている。

イノベーション

英単語のinnovation。改革、革新、新しいものという意味を持つ。


本記事は、オープンソースマガジン2005年12月号「オープンソースで行こう!」を再構成したものです。


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