PLC電磁波漏えい問題で聞こえる「慎重派」の声「エンタープライズPLC」のススメ(2/3 ページ)

» 2007年02月28日 08時00分 公開
[井上猛雄,ITmedia]

電磁波の漏えいを規定するコモンモード電流

 このように、さまざまな議論を経て実用化にこぎつけた高速PLCだが、実は解禁後の現在もアマチュア無線家らが中心となって、高速PLCの事業認可の取り消しを求めて行政訴訟を起こすなど、各所において争論が続いている。すでに指摘されているように、漏えい電磁波の問題についてはPLC推進派と非推進派双方の考えに大きな食い違いがあり、いまだにその溝は埋まっていないようだ。

 高速PLCによって漏えいする電磁波は「コモンモード電流」の許容値によって規定されている。とはいえ、一般にはコモンモード電流という言葉自体があまり聞き慣れないものだ。コモンモード電流とは一体何であろうか。

 一般家庭では、電力線が電柱から家に引き込まれ、宅内の分電盤につながっている。分電盤は機器や部屋ごとに分岐しているが、さらにその線の先にも分岐があり、スイッチやコンセント、照明などの電気機器につながっている。電力線上には交流が流れているが、高速PLCでは2M〜30MHzという高周波数信号を交流に重畳して通信を行う(参照記事)。このような状況では、電力線上を前述のコモンモード電流が流れ、電磁波が発生してしまう可能性があるという。

 電源と電気機器を電力線でつなぐと、通常、電気は電源から1周してから戻ってくる。ところが、図2のように2本の電力線で同じ向きの電流が発生してしまうことがある。これがコモンモード電流である。

図2 図2●コモンモード電流の発生原理。電源と機器の行き/戻りの信号線のバランスが悪いと、コモンモード電流が発生しやすくなる。例えば、地面との間に接地(アース)などを通してループが形成されると、同じ方向に電流が流れてしまう。電流の方向が同じだと電力線が大きなアンテナとなり、電磁波が漏れ出す

 コモンモード電流が発生する原因は、家庭内の配線の平衡度が崩れることに起因する。宅内で片方の配線だけにスイッチが入っていたり、地面との位置関係などが違うと、行きと戻りの信号線のバランスが悪くなり(平衡度が小さくなる)、コモンモード電流が発生しやすくなる。例えば、地面との間に接地(アース)などを通してループが形成されると、同じ方向に電流が流れてしまう。

 通常は2本の電力線を流れる電流の方向が逆のため、発生する磁界は相殺されるが、コモンモード電流では方向が同じなので、電力線の周囲には磁界と電界が発生する。そして、電力線が大きなアンテナとして働き、電磁波が遠くまで漏れ出てしまうことになる。もともと電力線はシールドされていないため電磁波が漏れやすいのだが、これが同じ周波数帯域を使う無線通信にとってノイズ源となり、ほかの通信を妨害する恐れがあると懸念されているのだ。

 もちろん、こうした漏えい電磁波の問題に対し、高速PLC推進ベンダー各社でもさまざまな対策を練ってきた。コモンモード電流の発生原因は電力線の状況だけでなく、PLCモデムの性能にも依存する。したがってベンダー各社は、PLCモデムに起因するコモンモード電流を規定値に収め、なおかつ万が一何か問題が起きた場合に備えて、PLC信号を搬送するサブキャリアの特定周波数をカットできるようにノッチを入れるなどで配慮している。例えばパナソニックコミュニケーションズが発売するPLCモデム「BL-PA100」では、現在アマチュア無線と短波放送の周波数帯にノッチフィルタを入れて、影響が出ないよう工夫されている。

 とはいえ、前述のように宅内に張り巡らされた電力線は建物ごとにさまざま。さらに照明のオン/オフなどによっても配線長は変わってしまう。運が悪ければ家屋自体が大きなアンテナになる可能性もあり、特定周波数の電磁波を放射する可能性もある。将来的に高速PLCモデムが広く普及してくると、ほかの無線通信に対してどのような影響を与えるか、まだよく分からない状況である。

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