PLC電磁波漏えい問題で聞こえる「慎重派」の声「エンタープライズPLC」のススメ(3/3 ページ)

» 2007年02月28日 08時00分 公開
[井上猛雄,ITmedia]
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メーカー、ユーザーの個別対応に委ねる現状

 それでは、このような漏えい電磁波の問題に対して、PLC慎重派はどのように考えているのだろうか? 国内唯一の短波放送局である「ラジオNIKKEI」の日経ラジオ社林政克 経営本部技師長に話を聞いた。

画像 日経ラジオ社 経営本部技師長の林政克氏

 同社は、研究会の過程でさまざまな要望を出したが、「すでにコモンモード電流の規制値が決定されてしまったため、その上で問題に対処していくしかない」というスタンスだ。林氏は、PLCの技術自体は決して悪いものと思っていないと前置きしながら、考えられる懸念事項について次のように話す。

 「一般リスナーの聴取に問題が起こることが想定される場合は、対応していかなければならないと考えている。実際には家庭での配線によって、PLCモデムによる漏えい電磁波のレベルはまちまち。影響を受けない場合、受ける場合があるだろう。PLC製品によってすぐに妨害が起こるとは考えていないが、これから利用が広がるときに問題になってくるかもしれない」

 現時点では、パナソニックコミュニケーションズなどのPLCモデム側で国内の短波放送帯にノッチが入れられているため、電磁波による影響はないと評価されている。とはいえ、林氏は「これはベンダー側の配慮によって実施されているもので、特に法制上義務があるというわけではない。あくまで商品規格と考えており、将来的にノッチが外されることも想定される」と説明する。

 また、自社の放送だけでなく、世界から入ってくる放送もある。「自分たちの放送さえ聴ければ他放送が聴けなくてもよい、という考え方はいかがなものかと思っている。今後、放送の周波数も変わる可能性がないとは言えず、いろいろな状況の変化も想定される。ほかの放送の周波数にも影響があれば困った状況になる」(林氏)

望むは無線/PLC共生の道

 同社ではPLCの漏えい電磁波が短波ラジオに与える影響について独自に調査、実験も行っている。電力線経由でライブカメラと音声のデータを流し、PLCモデムが動作した状態で室内受信について検証したところ、低域ではまったく問題がなかったものの、9MHz帯についてはファイル転送時にラジオの音声に断続的なノイズが乗る現象も見られたという。ただし、これはあくまでこの実験下でのもので、すべてが同じ結果になるかどうかは特定できていないようだ。

画像 日経ラジオ社による高速PLCモデムの電磁波漏えいの実験の映像。一部の帯域(9MHz帯)で「ザッザッザッ」と断続的なノイズが乗っているという

 また、電監審の答申では、PLCの漏えい電磁波を「離隔距離」をもって周囲ノイズ以下の強度にするという考え方がベースになっている。妨害波の強さではなく、コモンモード電流の値で規定されるため、電流値で実際にどの程度妨害があるのか分かりづらい。コモンモード電流値から二次的に計算して電磁波の影響を推測できるが、PLC慎重派の意見では、コモンモード電流値は直接の対象ではなく、妨害波で規定してほしいという声も多かったという。

 加えて、離隔距離で周囲ノイズ以下にするという考え方のため、室内で問題が起きたときのことは考慮されていない。何か問題が起きた場合は、短波ラジオを使う間は高速PLCを使用しないなど、利用者側の個別対応となる。

 林氏は「商業地域や住宅地域では隣の家まで近接していることが多い。漏えい電磁波が届く範囲は10メートルまで想定されているので、まだ影響が出るかもしれない。妨害が起こる可能性は1%と見込まれているが、仮に隣宅で妨害が起きると、短波放送の周波数とPLCのマルチキャリアの周波数は一致するし、場所も固定される。ブロードバンド利用ならば時間帯も昼夜関係なく一致する。全国881万のリスナーが短波放送を聴いているため、PLCが普及した場合は、一般リスナーに少なからず不安を与えるかもしれない」と懸念の表情を見せる。

 現状、高速PLCによるほかの無線通信への悪影響は具体的には出ていない。とはいえ、何か問題が起きたときに、解決策の現実解となるものはあるのだろうか? 林氏は「技術革新は非常に早いので、何とか無線と共存するような技術が登場して、共生できることがわれわれにとって一番ありがたいこと」と考えている。その一方で、「規制値が海外のような強い妨害波レベルに揺り戻されては困る。PLCは世界的な流れの中で開発された製品なので、日本がリードして妨害がないような形で進めていただきたい」と要望を出す。


 かつて、無線LANやADSLが導入され始めた初期のころにも、さまざまの技術的な問題が山積していた。現在の高速PLC技術とその潜在的な問題は、いわば「走りながら考えている」状況なのかもしれない。メーカー側の努力や製品の普及によって、現在心配されている問題が解決されていくことを期待したい。

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