与えるべきか否か:FOSSにおける報酬のトレードオフ(2/2 ページ)

» 2007年03月12日 11時53分 公開
[Bruce-Byfield,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine
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現物支給

 2番目の報酬制度として現物支給(payment in kind)がある。これには、会議に出席するための旅費やハードウェアなど、主だった貢献者の活動を支援するためのプロジェクトからの贈与が該当する。

 大規模なFOSSプロジェクトのリーダーたちは、報奨金に対しては慎重な態度を見せていたが、現物支給の方は熱烈に支持しているようだ。この違いは、誰かに500ドルのHDDを買い与えるのと同額の現金を渡すのとの違いだ、とヘッカー氏は言う。「贈り物のようなものだ。誕生日プレゼントに実際に使える何かではなく現金を贈った場合、普通はあまり気持ちが伝わらない」。FOSSプロジェクトの場合、現物支給は、誰かを特別に選び出し、その人物がもたらした成果を賞賛するとともにさらなる貢献を引き出す方法でもある。つまり、現物支給はFOSSの文化に適合しており、その効果は現金では得られない。

 スペバック氏は、FedoraではFUDconのような会議への参加費用を貢献者に支給することが多いと説明する。「これは比較的賢明な投資の方法だろう。なぜなら、コミュニティーの構築とメンバーの援助が同時に行えるからだ。プロジェクトにとってもお金を受け取る側にとっても、ただ単に‘これは謝礼だ。君の協力には感謝している’といって現金を渡すよりもずっとWin-Winに近い効果が得られるように思える」

 現物支給には受け取れなかった人々の間に妬みや恨みを残す危険がなくもないが、スペバック氏は、大部分のFOSSプロジェクトに広まっている実力主義を考慮する限り、その可能性はまずないだろう、と語る。「‘リーダーは誰か’という質問をコミュニティーのどのメンバーにしても、きっと同じ名前が返ってくるだろう。だから、反感や敵意が生まれる余地はないのだ」

 同様に重要な点として、現物支給は貢献の重要性を認める褒賞であるため、特にそれが会議への参加費用負担という形を取る場合には、雇用関係へと発展することは一切ない。スペバック氏は、最近のFUDconについて触れ、プロジェクトから参加費用を与えられた人々が仲間たちと直接顔を合わせ言葉を交わす体験をすることで「活力を得るとともに意欲を高め」、「多くの優れた成果」が会議で得られた、と話している。

助成金と仕事の提供

 スペバック氏は、助成金(grant)や仕事の提供(employment)といったほかのアプローチを単に現物支給を発展させたものととらえている。特にFedoraでの活動にかかわる仕事に対してRed Hatが人材を募集する場合は「Fedoraコミュニティーで活動していた人物でその人数枠を埋めることになる。わたしにとっては、多くの理由からこれが完全に理に適ったやり方だ。彼らはすでにコミュニティーに参加しているので、無理をして調子を合わせる必要がない。また、この方法は、コミュニティーのメンバーの働きをわれわれが評価していることを示すことにもなる。FUDconへの参加に必要なチケットをメンバーに買い与えるといった方法は、この方法を縮小したものだ」

 ヘッカー氏の指摘によると、助成金や仕事の提供は、ボランティアの貢献に対する報酬になるほか、見過ごされている領域での活動を奨励する方法にもなりうるという。例えば、Mozilla FoundationではFirefoxとThunderbirdへのアクセシビリティ機能の導入を奨励するために助成金を支給している。

 「自らが障害者でない限り、普通はアクセシビリティの問題について深く考えることはないだろう。そのため、この領域には自発的に活動してくれる貢献者が少ない。最終的にわれわれが目指すのは、すでにMozillaに関与している貢献者のグループをどうにか形成し、そのグループに対して助成金を支払うことでグループの各員にアクセシビリティ機能への関心を持ってもらうことだ」。少なくとも1つか2つの事例では、短期的に助成金を受けてアクセシビリティ機能に取り組みむことで、ボランティアたちは助成期間の終了後もその作業を続けようという気になっている。ヘッカー氏は、助成金について「そうでもしなければ興味を持たないような作業に関心を向けさせるとともに、見返りを得ているという理由から、その作業に納得して取り組みんでもらえる」と語る。

報酬形態の選定

 FOSSプロジェクトへの報酬制度の導入に当たっての鍵は、その状況を考慮することだと専門家たちは口をそろえている。Googleが資金提供の要求を受け入れるときのことについて、Googleのオープンソースプログラム・マネジャーChris Dibona氏は次のように語る。「われわれの受け答えの内容はいつも同じだ。まずは、その資金からどんな良い結果が得られるのかを尋ね、次に、その資金がどのようにプロジェクトに役立ち、提案者がなぜその計画の実行メンバーの1人として参加するのかを説明してもらう」

 だが、答えは1つではない。どんなプロジェクトでも、お金が本当に役立つのかを考えなければならない」

 ヘッカー氏にとって、重要なのは個々のメンバーの動機づけである。彼はほかのプロジェクトに「バグ修正の見返りとしてお金を使わないよう」にと――こうした報奨金はよく見かける――助言しながらも、何が適切な報酬形態かは受け取る側の好みにも依存するとも述べている。Mozilla Foundationを例に挙げ、ヘッカー氏は次のように語る。「Mozillaでボランティアとして活動する多くの人々は、ボランティアであるがゆえによりいっそうMozillaが好きなのだと意識的に思い込んでいる。彼らはボランティアとして活動への意欲を感じるのであって、常勤の従業員としては必ずしも意欲的になれるとは限らない」。そうした献身的なボランティアに何らかの報酬を与える場合は、現物支給が最も適切な選択肢となる可能性が高い。よりキャリア指向の高い人々には、おそらく助成金または仕事の提供の方が適しているだろう。

 また、ヘッカー氏は次のように語る。「金銭が絡むとオープンソースプロジェクトは自然の成り行きとして衰退に向かうという考え方は、事実とは異なる。ある種のスキームは意欲を失わせる可能性があるが、オープンソースプロジェクトに報酬を持ち込むことで問題が起こるという話が一般的に当てはまるとは思わない。すべてはその扱い方と体制次第だ」

Bruce Byfieldは、NewsForge、Linux.com、IT Manager's Journalに定期的に寄稿しているコンピュータージャーナリスト。


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