快走するHP ── その強さの秘密を大連に見た(2/3 ページ)

» 2007年05月11日 08時00分 公開
[浅井英二,ITmedia]

 今回は日本チームのフロアを訪ねる機会があったが、その日本語のレベルの高さには正直驚かされた。恐らく、電話の向こうのユーザーは、名前を告げられるまで、担当者が中国人エンジニアであることに気がつくことはないだろう。「トータル・カスタマー・エクスペリエンス」を重視するHPにおいて、ユーザーサポートは極めて重要な業務だが、日本HPをオフショア化に踏み切らせた背景には、こうした優れた人材がある。

顧客満足度向上への取り組みとして、大連のコールセンターチームでは日本の文化も教えるほか、マネジャーやスーパーバイザーを中心に日本人の比率も35%を占める

 大連は、かつて日本が統治した時代もあり、日本語教育が盛んな土地柄でもある。大連外国語学院は、日本語教育では中国ナンバーワンといわれ、毎年、優れた人材を輩出している。

 日本HPのバックオフィス業務を行うBPOセンターも、日本語教育の盛んな大連の特徴をうまく活用している。

 HPでは、コールセンター業務と同様、経理のような社内業務を集約して行うBPOの拠点を世界10カ所に置いている。大連もその1つであり、バルセロナやブカレストなどと同じように地域に特有な言語による業務処理を担っている。

「大連がなければ……」

 BPOのオフショアというと、大量の伝票などを電子化するデータ入力業務の印象が強いが、日本HPでは見積書作成のような難しい業務を大連BPOセンターにアウトソースしている。

 日本HPでオペレーションサービス統括本部長を務める菊池享氏は、「見積書作成は、日本人でも習熟するには1年以上かかる仕事。日本HPでは成長とともに仕事量が増えてきており、もはや大連がなければこなせないだろう」と話す。

 日本チームを率いる芦慧英氏によれば、日本語能力検定1級の取得が採用の最低条件だ。現在は、見積書作成のほか、契約管理、買掛金管理といった業務に限られているが、今後は給与支払や経理業務なども行う計画だという。

アワード制度について説明する日本担当マネジャーの芦氏。オフィスの壁には受賞者が張り出されている。若いスタッフたちにとっては向上心が刺激されるという

毎年500万人の大卒?

 大連には23の大学と180の教育機関があり、毎年8000人の卒業生が産業界に供給される。「中国では毎年500万人の大学卒業生が社会に出る」という陳氏の言葉には度肝を抜かれるが、ソフトウェア最大手のNeusoftが出資して設立した東軟信息技術学院をはじめ、IT教育に力を注ぐ大学が大連には多く、2万6000人のITエンジニアが市内で働いているという。

 日本語を話せ、そして読み書きできる人材、そしてITをしっかりと大学で学んだ人材が、大連の強みと言っていいだろう。

 上海HPは、こうした地の利を生かし、日本HPが受注した企業顧客向けのアプリケーション開発を専門に行うJapan Dedicated Development Center(JDDC)の拠点を大連サイトに置いている。約300人が働く大連サイトだけでなく、上海や重慶も合わせた約500人で構成されているJDDCだが、全体の6.8%がプロジェクトマネジメントプロフェッショナルの資格を持ち、日本滞在の経験者も16.4%に上る。

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