「最大400倍」を可能にする4つの要素最適化から始まる、WAN高速化への道(2/2 ページ)

» 2007年06月05日 08時00分 公開
[井上猛雄,ITmedia]
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WAN高速化はすべてに有効とは限らない

 WAN最適化ソリューションの目的は、現状のWAN回線で問題となる遅延を小さくし、パフォーマンスの限界を引き上げる最適化を施すことによって、データ転送や各種アプリケーション利用を改善することにある。具体的には、特定アプリケーションやファイル共有時の高速化、海外拠点における速度向上とコスト低減、リモートバックアップ(拠点間データべースのレプリケーション)の高速化などにおいて大きな効力を発揮する。

 参考までに、WAN高速化ソリューションを導入した際のパフォーマンス向上の例について表1に示す。高速化の結果はユーザー環境にも大きく左右されるが、Windowsファイル共有(CIFS)、WebおよびWebアプリケーション(HTTP)などは改善の効果が著しく、最大で400倍近く高速化できるケースもあるようだ。

表1●WAN高速化ソリューションによる高速化の結果
対象アプリケーション A 社 B 社
Windowsファイル共有(CIFS) 4〜200倍 5〜228倍
MS Exchange(MAPI) 3〜50倍 5〜30倍
Web(HTTP) 3〜50倍 7〜400倍
バックアップアプリケーション 2〜50倍 10〜45倍
データベース(MS SQL、Oracleなど) 1〜10倍 3倍
製品導入時、導入後の相対的な比較。ユーザーの利用環境によって異なる(出典:ブルーコート)

 とはいえ、WAN最適化ソリューションがすべてのアプリケーションやプロトコルに有効かというと、必ずしもそうではない。ユーザー環境によっては特定のプロトコルに有効であったり、逆にあまり効果がないケースもある。例えばデータベースについては特性上、各社ともパフォーマンスの改善はあまり見られないようだ。また、VoIP(Voice over IP)やビデオストリームなどは最適化というよりも、帯域の確保が重要となる。

 ブルーコートの村田眞人氏(SEディレクター)は「VoIPやビデオストリームなどリアルタイム系のメディアなどは、圧縮など最適化の処理を施すと、逆にそれによって遅延が発生してしまう可能性もある。VoIPのトラフィックはそのまま流し、確実に帯域を保証する必要がある。アクセラレーションによって、一部のアプリケーションの帯域の利用効率が良くなっても、逆にVoIPの帯域がひっ迫し、音が切れるようでは意味がない。そのためQoS(サービス品質)も最適化するための1つの機能ととらえている」という。

 帯域制御装置「PacketShaper」を中心に「iShared」「SkyX」などの高速化ソリューションを提供するパケッティアの塚本靖氏(パートナー営業部セールスエンジニア マネージャー)は「WAN高速化のためには、まずアプリケーションごとの特性をしっかりと把握した上で、現状分析する必要がある。それをべースにアプリケーションの優先度を決めて、特性に合った高速化のチューニングを行う方がよい」と語る。

高速化に共通する4つの機能とは?

 さて、各社から続々と登場するWAN高速化ソリューションだが、それぞれの製品の基本的な機能には共通するものも多い。もちろん、それぞれの細かい技術レベルでは各社が独自のノウハウを凝らしており、その特徴も異なっている。ここでは、共通する代表的な機能について見ていこう。

 WAN最適化ソリューションで用いられる主な技術は、主に(1)プロトコルの最適化、(2)データ圧縮、(3)キャッシング、(4)帯域幅管理(QoS)の4つ。

 (1)は、TCPであればWAN高速化製品側でのACK代理応答、TCPのウィンドウサイズ拡張、スロースタートの制御などによって、レスポンスタイムを改善し、スループットを向上できる。また、独自にTCPの多重化を図る方式を採用するベンダーもある。一方、アプリケーションの最適化は、クライアント/サーバ間の“チャッティ”(おしゃべり)な通信を抑えることで、スループットを向上させるものだ。

 (2)は、WANに流れるデータ量を削減することで高速化を実現する手法だ。例えば、F5ネットワークの「WANJet」では、TDR(Transparent Data Reduction)と呼ばれる技術によって、繰り返されるデータパターンを辞書機能で学習/記憶し、データ量を圧縮する。また、ジュニパーネットワークスのWAN高速化ソリューションも同様の技術を備えている。中村真氏(マーケティング部ソリューション マーケティングマネージャー)によると、WXシリーズは米国で特許を取っている独自の圧縮技術(MSR:Molecular Sequence Reduction)で細かい圧縮ができる点が特徴だという。

 (3)については、WAN最適化ソリューション側で1回目にアクセスしたデータを一時的に保管しておき、2回目以降はそれを参照することでWANに流れるトラフィックを削減し、なおかつデータアクセスを高速化するものだ。(4)のQoSは、前述のように高速化というよりも、VoIPやビデオストリームなどリアルタイム系のメディアの帯域を優先的に確保することによって、遅延の影響を受けやすいアプリケーションのパフォーマンスを保証しようという考え方である。

 WAN高速化ソリューションで用いられるテクノロジーの詳細やその仕組み、各社の具体的な製品については、次回より説明していく。

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WAN高速化 | Exchange | 負荷分散 | Oracle


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