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» 2007年07月20日 12時18分 UPDATE

携帯CPUでヒヤリハットをなくせ――ウェアラブルコンピュータの今

些細なことで起きる“ヒヤリハット”。医療の現場では生死にもかかわる。医療のヒヤリハット撲滅に向け、ウェアラブルコンピュータの研究が続いている。

[國谷武史,ITmedia]

 関西文化学術研究都市(京都府)にある国際電気通信基礎技術研究所(ATR)は、情報通信研究機構の民間基盤技術研究促進制度による委託研究委託を受けて、2004年9月からウェアラブルコンピューティング技術を利用して医療事故の撲滅を目指す「E-ナイチンゲールプロジェクト」を行っている。ワイヤレスジャパン2007会場では、ATR知識科学研究所知識入出力研究室の野間春生主任研究員が最新の研究動向を紹介した。

DSCF0019.jpg 野間春生主任研究員

 米国で2000年に行われた調査では、医療事故による死亡者数が交通事故やエイズなどの死亡者数を上回ることが明らかになった。医療事故は、人為的な“ヒヤリハット”が原因となることが多いという。特に患者を接する時間の長い看護師が当事者となるケースが、医師や薬剤師などに比べて圧倒的に多い。

 E-ナイチンゲールプロジェクトは、日常の行動や状況理解の過程に存在する知識や経験則を顕在化させ、共有・活用するシステムを構築しての医療事故削減が目標となる。看護業務記録のシステム化や分析システムへの展開、新人看護師などに対するリアルタイムアドバイスシステムの実現、ヒヤリハット事例の共有化を目指す。

DSCF0026.jpg E-ナイチンゲールプロジェクトの概要

 病院でのヒヤリハット要因として目立つのが、口頭で行われることによる業務指示の連絡、確認の漏れだという。「看護師の仕事を実際に見たが、10分間のうちに10種類の業務をこなさなければならないなど非常に激務だと感じた」(野間氏)。プロジェクトでは、まず看護師の1日の業務行動を把握するためにウェアラブルコンピュータとセンサーネットワークよるシステムの開発が進められている。

 このシステムは、看護師の行動や状況を「点」としてとらえ、その点に至った業務の流れを「線」として理解する。並行して行われる業務や周囲状況の推移による複数の「線」は、「面」としてとらえることで全体像を把握する。一連の行動に伴う「いつ」「どこで」「誰が/誰と」「何を」「どうした」をセンシングし、行動内容の全体像を描く考えだ。

 実証実験では、Bluetoothや無線LANを搭載するウェアラブルコンピュータとBluetooth搭載の加速度センサー、赤外線ID発信器を看護師に装着させ、病院内には各部屋に通過センサーを配置する。センサー間で同期される時刻情報と看護師の移動情報から「いつ」「どこで」の内容を取得する。またセンサー同士の近接検出機能を利用して看護師のIDを識別し「誰と/誰が」の情報を取得。医療機器などにRFIDタグを取り付けることで操作対象の「何を」の情報が得られ、加速度センサーと音声記録の併用で「どうした」に当たる行動情報の識別を行う。

 これまでの結果から、例えば「何を」に当たる対象物の識別精度は75%となった。また行動内容の識別精度は、点滴の用意〜実施、検温、患者の体を拭くといった基本業務の場合で87%となった。また、センサーやウェアラブルコンピュータに求められる仕様も明らかになった。

 看護師の業務は常に激しい運動が伴うため、装着機器には看護師の行動を阻害しない小型・軽量性が絶対条件になる。一方で長い勤務時間内に無線通信を頻繁に行うため、低消費電力と処理性能の両立も条件の1つ。このほかにも看護師や応対する患者のプライバシーを保護することが求められるという。

DSCF0028.jpg 携帯電話用CPUを利用して小型・長時間駆動を実現したウェアラブルメインユニット

 装着機器は、加速度センサーとセンサーの情報を収集してセンターと情報を交信するウェアラブルメインユニットからなる。メインユニットは手のひらサイズの大きさで、長時間動作と加速度データや音声データを処理するために、携帯電話用CPUの「SH-Mobile3」(ルネサステクノロジ製)が搭載された。

 野間氏は、「PDA向けCPU中心にいくつかの種類で処理性能と消費電力量を検証したが、携帯電話用CPUが最も良いパフォーマンスを出すことが判明した」と話す。搭載したCPUは動作周波数が216MHz、32MバイトのRAMを持つが消費電力量は447ミリアンペアほど。無線機能の稼働率を50%とした場合にメインユニットは11.5時間の連続動作が可能になるという。

 ATRでは、これらの機器やセンサーネットワーク環境を医療レベルで運用するためのサーバソフトやアプリケーションの開発を進めており、医療分野だけでなく接客や流通といった業務への応用も期待されている。

 システムに対する医療現場の反応について、野間氏は「機器を装着すること自体に抵抗感を持つ看護師がほとんどで、ナースコールを受けられるPHSがようやく利用され始めたのが医療の現状だ。今後は看護師の負担を軽減して業務の正確性を高める新しいシステムだと受け入れられるように開発を進めたい」と話している。

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