第2回 組織知性とパフォーマンスマネジメントビジネスインテリジェンスの新潮流 〜パフォーマンス マネジメント〜(2/3 ページ)

» 2007年10月23日 20時45分 公開
[米野宏明(マイクロソフト),ITmedia]

経験=知識=ナレッジマネジメント

 ここで思い出されるのが、やはり数年前ブームを巻き起こし、多くの失敗事例もまた生み出した「ナレッジマネジメント」である。ナレッジマネジメントは、個人の持つ「暗黙知」を、共有可能な「形式知」に変え、それを結合して新たな知識を生み出すというステップを繰り返すことで、組織としての知識レベル向上を目指したアプローチだ。

 知識は経験に依存する。なぜなら、ただ「知っている」だけでは知識とは言えないからだ。ただの物知りは何も生み出さない。自らの経験に基づく解釈があって初めて、知識として身に染みて、そこから新たな知恵が生み出される。知識と経験は表裏一体のものであるはずだ。つまり、知識を共有するためには経験の共有もまた必要になる。そうでなければ、異なる経験を持つ他人の知識を、自分の知識として身に染みさせることは難しい。

 当時、暗黙知を形式知にすることがすべての始まりだと言わんばかりに、個人にインセンティブを与え、ベストプラクティスドキュメントの作成などを促し、それを文書共有システムで公開した。しかしそこには重大な二つの問題がある。一つは、ドキュメント単体は単なる情報にすぎないこと。もう一つは、個人がベストプラクティスドキュメントを作成するときには間違いなくウソをつくことだ。

 多くのナレッジマネジメントシステムは、ただの「情報共有」システムだった。情報は、どんなに共有しても情報にすぎない。情報を知識に変えるには、その情報が持つ背景、つまり情報作成者の経験を踏まえる必要がある。従って、ドキュメントが単にそこにあるだけでは意味がない。何らかの成功体験をドキュメント化したとしても、その当時の表立っていない人間関係や複雑な市場環境、微妙な駆け引きなどまでを正確に表現するのはかなり難しい。ドキュメント化の過程でどうしても落ちてしまうこれらの情報は、一般にはさまつな情報として扱われがちだが、実はその成功をもたらすための絶妙なバランスの一部であることが多い。そして、ドキュメント化をする人の側にも、そのような情報を落としたい動機がある。ベストプラクティスはその個人にとっての誇るべきことであり、本当はベタな人間関係や駆け引きの下に成立していたとしても、そのさまつな情報を落としてロジカルに表現する欲求を持っている。だから、多くの情報にはウソが含まれる。

 ナレッジマネジメントシステムが知識の共有を目的とするならば、経験の共有が大前提になければならない。そしてこれは同時に、先に述べた組織知性向上のための必要条件でもある。

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