第8回 ハッカーとオープンソースまつもとゆきひろのハッカーズライフ(1/2 ページ)

わたしに限らず、多くのハッカーたちはフリーソフトウェア(オープンソースソフトウェア)が大好きです。ハッカーがフリーソフトウェアを愛する最も大きな理由は、自由なのです。

» 2007年10月29日 05時00分 公開
[Yukihiro “Matz” Matsumoto,ITmedia]

オープンソース貢献者賞

 2005年のことですが、IPAとオープンソース推進フォーラムから「オープンソース貢献者賞」なる賞をいただきました。当時受賞したのはDebianプロジェクトの貢献者として知られる鵜飼さん(日本HP)、Linuxカーネルハッカー高橋さん(VA Linux Systems Japan)、NamazuやGonzuiなどで知られる高林さん(グーグル)、そして、まつもと(ネットワーク応用通信研究所)の4人でした。第1回ということで、オープンソース界隈でそれなりに名前が知られていて、かつ実際にコードを書く人を中心に選定したというところでしょうか。いずれにしても大変ありがたいことです。

 本来、わたしは表に出たり、有名になったりするのはあまり好きではありません。しかし、最近ちょっと考えを変えることにしました。わたし自身が好むと好まざるとにかかわらず、「Rubyのまつもと」はこの業界では知れ渡ってしまったのですから、いまさらこれをどうにかできるものではありません。それならば、むしろ精一杯「成功」して、後に続くオープンソース開発者の模範あるいはロールモデルになろうと思うようになりました。「オープンソースをやっていても食べていけるんだ」とか、「オープンソースを仕事にして幸せそうだ」とかいうありさまを見せることもわたしの使命の1つなのでしょう。きっと。

 さて、今回オープンソースの貢献者の1人として認定されたわけですが、わたしがいわゆるオープンソースとかかわり出したのは、オープンソースという単語が生まれた1998年をはるかにさかのぼります。当時はフリーソフトウェア*と呼ばれていました。最初の出合いは1989年ごろで、EmacsとGCCに触れたのが始まりだったと思います。それ以来、職業プログラマーが会社のために仕事として開発したものはともかく、そのようなしがらみのないものをフリーソフトウェアとして公開するのは当然だと考えていました。フリーソフトウェアにはお世話になりっぱなしですし、それくらいは当たり前ではないでしょうか。

フリーソフトウェア好きのハッカーたち

 わたしに限らず、多くのハッカーたちはフリーソフトウェア(オープンソースソフトウェア)が大好きです。それはなぜでしょうか。

 タダだから? それもあるでしょう。数多くの優秀なソフトウェアが無償で利用できるのは、大変ありがたいことです。わたしのノートPCには、OSとしてDebian GNU/Linux、そして数えきれないほどのソフトウェアがインストールされていますが、そのほとんどはフリーソフトウェアです。

 しかし、ハッカーがフリーソフトウェアを愛する最も大きな理由は、経済的なものではなく、自由です。ハッカーは自分が理不尽と感じる理由で行動が制限されることを大変嫌います。あるソフトウェアがどのように動いているか知りたくなったときには、ソースコードを読んでそれを確かめたい。ソフトウェアにバグがあったときには、自分でそれを直したい。自らの行動を制限するものがあれば、ソースコードを読み、プログラミングテクニックを駆使して、それを排除したい。それはもうハッカーの本能のようなものです。

 世間的に「ハッカー」という言葉に悪い意味を与えてしまったクラッカー(システム侵入者)たちも、もともとは自分たちに対する制限への過剰反応が起源です。1970年代にMITなどに生息していたハッカーたちは、自分たちの問題を自由に解決するため、ときどきかなり過激なこと*を行ったと聞いています。それだけ彼らは自由を切望し、自由を獲得するために闘争していたのです。いつもそれが正しかったとは言いませんが。

このページで出てきた専門用語

当時はフリーソフトウェア

もちろん、現在でもフリーソフトウェアという呼び名は存在している。個人的な意見を言えば、フリーは自由を意味するので、用語としてはオープンソースよりも優れていると思う。しかし、マーケティング用語としてはオープンソースの方が成功したのは間違いなく、また、わたしがご飯が食べられているのもそのマーケティングのおかげである。複雑な気持ちだ。

かなり過激なこと

例えば、ハッカーという言葉そのものを生んだMIT鉄道クラブ( TMRC: Tech Model Railroad Club)のメンバーが、夜な夜なMITの建物に忍び込んでコンピュータを無断使用していたことは有名である。当時、その行為はあまり問題視されなかったようだ。大らかな時代である。


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