SellとUseのはざまから生み落ちたTurbolinux 11 Server

ターボリナックスが発表した3年ぶりのサーバOS「Turbolinux 11 Server」は、TOMOYO Linuxの採用にはじまり、Microsoftの知的財産からの保護など、ほかのディストリビューションと大きく異なる姿勢を打ち出した。

» 2007年10月31日 22時15分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 「最近はデスクトップOSやwizpyの発表が続いたため、『ターボリナックスはエンタープライズ領域のビジネスに背を向けるのか』と思われていたかもしれないが、われわれは、エンタープライズ、もしくはミッションクリティカルな領域のノウハウを蓄積してきた。今回発売するTurbolinux 11 Serverはその集大成」――と話すのは、ターボリナックス代表取締役社長兼CEOの矢野広一氏。同社は10月31日、3年ぶりとなる同社のサーバOSの最新版「Turbolinux 11 Server」(コードネーム:Musasabi)を11月29日に発売することを明らかにした。

矢野氏 「けんかでも(相手が)10人いれば大将から。今後もほかの企業と特知的財産からの保証について交渉していく」と矢野氏。こうした交渉が経営に与えるインパクトはないという

 その概要については8月に行われた発表会ですでに伝えられていた同製品。エントリレベルからミッドレンジにかかるサーバ市場をターゲットに、米ZendのPHP関連製品である「Zend Core」「Zend Framework」「Zend Optimizer」のほか、現状、単体製品で提供されている負荷分散ソフトウェア「Turbolinux Cluster LoadBalancer」などを同梱する構成となった。

 また、Linuxカーネルが最新版になったことで、プロセススケジューラが「CFS」となっていたり、メモリ管理がSLABアロケータからSLUBアロケータに変わっている。さらに、多くのディスクリプタを利用可能にするepollインタフェースや、10ギガイーサネットのドライバなども備え、ネットワーク面での処理性能も向上している。

セキュアOSをSELinuxからTOMOYO Linuxに変更

 商品の説明を行った事業推進本部本部長の森蔭政幸氏によると、8月の発表会では2.6.22-0.4だったLinuxカーネルは2.6.23に、また、仮想化機構としてはXenではなくKVMを押し出している。さらに、セキュアOSとして、それまでの「SELinux」に代えて「TOMOYO Linux」(バージョンは1.5)を採用したことを明らかにした。設定が難しく、エッジ系サーバ向けとしてはしきいが高いSELinuxから、自動学習によるポリシー作成が可能なTOMOYO Linuxの方が顧客にふさわしいと判断したという。今後、TOMOYO Linuxの開発を主導するNTTデータと共同してセミナーやコンサルティングを進めていく計画であるという。

 コスト面もほかのディストリビューションと大きく異なる。「昨今、Linuxといえども気軽に買えない価格になってきた。しかもサブスクリプション方式が主流になっているが、ターボリナックスはかたくなに今のままでゆく」と矢野氏が話すように、基本のパッケージで4万9350円(税込み)、この価格に5年間のバグ修正、セキュリティパッチ、セキュリティ情報のアナウンスといったサポート料金が含まれる。6年目以降は有償での対応となるが、その場合も1年ごとに必要な料金はパッケージの代金と同額にすることを検討しているなど、コスト面ではほかを大きく引き離す。また、ダンプを基にした障害解析などを行う「Turbo Support」と呼ぶ有償サポートも提供予定。

 製品の種類としては「Turbolinux 11 Server」(4万9350円)、「同VM GuestOS Edition」(2万9400円)、「同Standard Platform」(8万9880円)の3種類が用意され、アカデミック版や既存ユーザーのための優待版も用意される。Turbolinux 11 Serverと同Standard Platformの違いは、メールもしくはWeb経由での技術サポート(1年間)が付属しているかどうかと、クラスタリング対象サーバ数が、前者が2サーバであるのに対し、後者が10サーバであることの2点だ。

 このうち、仮想化の台頭を考慮したVM GuestOS Editionを用意していることに注目したい。同エディションでは、価格が2万9400円と通常のパッケージと比べて幾分安価に設定されている。ただし、利用するためには最低でもTurbolinux 11 Serverが1ライセンス必要となる。これはつまり、例えばSUSE LINUX Enterprise ServerやRed Hat Enterprise Linux上でXenを稼働させ、その上の仮想マシンに11Sをインストールしようとする際であっても、「Turbolinux 11 Server」「同VM GuestOS Edition」がそれぞれ1ライセンス必要となる。

Microsoftの知的財産からの保証は最低でも今後9年保証

 商品説明の後、再び壇上に立った矢野氏は、米国時間の10月22日に発表されたMicrosoftとの包括的協業について、発表時に協業の範囲として挙げられていた「相互運用性の向上」「研究開発分野における連携」「知的財産の保証」「デスクトップ分野における協調の拡大」の4項目について、より詳細な説明を行った。

 協業のポイントは幾つか挙げられるが、ユーザーがその恩恵をすぐに受けられるのは知的財産の保証について。これまでもWindows Mediaフォーマットのコンテンツを同社製品上で再生できるようにするためにMicrosoftからライセンス供与を受けるなど、理想と現実のはざまで折り合いを付けてきた同社だが、今回のTurbolinux 11 Serverでも、ユーザーはMicrosoftが保有するすべての特許技術の利用が認められる。

 「これまでLinuxの採用には2つの懸念が存在していた。1つは、サポートの継続性。これはこの数年間で実証されてきた。もう1つが、特許。特許や知的財産の問題が話題になることは以前と比べ少なくなり、ユーザーもリスクであるという気持ちが薄れてきたかもしれないが、実際にはこの問題はいまだ何1つとして解決しておらず、『みんなで渡れば怖くない』という状態に過ぎない」と矢野氏。実際にLinux/OSSが特許を侵害しているかどうかが問題ではなく、Turbolinuxを利用すれば、知的財産権に関して裁判ざたにならないことを、アジア全域に対して保証することが重要であり、そのための協業であるとした。一方で、後述するSamba1つ取り上げても、Microsoftの仕様に追従していくことはベンダーにとってもユーザーにとっても負担が大きいため、この点からもユーザーメリットは大きいと説明した。

 今回の協業では、Microsoftが主張する、Linuxが侵害しているという特許の具体的な部分について、ターボリナックスが目にすることはないというが、知的財産の保証については、最低でも今後9年は保証されるものであると明かした。

 「OSSビジネスを長らくやってて、その中では『Linuxが来る、来る』『国策うんぬん』といわれ続けていたが、(OSSビジネスそのものをなりわいとする)Red HatやNovellのビジネスと、(OSSを活用する)GoogleやAmazon、Yahooといった企業のそれには大きな差があり、きわめて小さなマーケット」と矢野氏はいう。

 そして、前者を「Sell Linux」型、後者を「Use Linux」型ととらえたとき、どちらがハイマージンかは明白であり、Microsoftですら両者のコンビネーションを考慮しなければならない時代になるなど、OSSビジネスが新たな局面に来ていると話す。

 そして、同様の意識を持っていたMicrosoftと今年2月から協議を進め、今回の発表へと至ったのだという。「オープンソースだからといって、知財が尊重されない社会に未来はない」(矢野氏)。

 相互運用性の向上では、Active Directory下でTurbolinux製品のシングルサインオンを実現させることを推進する。これは、Linux(Samba)に未実装のままとなっている幾つかのプロトコルをはじめ、WindowsプロトコルをTurbolinuxに移植していくことが具体的な取り組みとなる。

相互運用性の向上に向けた取り組み 相互運用性の向上に向けた取り組み

 予定では2008年度内にTurbolinux 11 Serverの対応モジュールとして提供される予定だが、Microsoftのコードと密に関係することもあり、その成果物はバイナリでのみ配布される。

 さらに、これらの取り組みを含めたソフトウェアの共同検証体制として、2008年春をめどに、中国に共同検証施設を設立する予定であるという。ここでは、上述のActive Directoryモジュールだけでなく、Open XML translatorの開発も進められる予定だ。「(Open XML translatorは)ビジネスデスクトップ分野では最大のキラーアプリ」(矢野氏)

 また、検索エンジンに「Live Search」を採用することをはじめ、Microsoftが今後展開するさまざまなサービスがTubolinuxを通じてLinuxユーザーに届けられることになるという。

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