企業セキュリティの一端を担うようになったバイオメトリクス認証。各方式の市場の動きは今、どのようになっているのか。
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「2001年にアメリカ同時多発テロ事件、いわゆる“9.11”事件が発生し、究極の個人認証といわれるバイオメトリクスが必要であるという社会的認知が高まる結果となった」。こう語るのは、日本自動認識システム協会(以下、JAISA)研究開発センター バイオメトリクス担当の主任研究員である中嶋晴久氏。その流れは、日本国内においても例外ではなかった。
第三者によるなりすましやスキミングなど金融機関の予期せぬトラブルに加え、2005年4月1日に全面施行された個人情報保護法の影響がバイオメトリクスの普及を加速させている。JAISAが2006年4月17日に発表した自動認識市場規模の調査報告によると、国内におけるバイオメトリクス関連の出荷金額は2004年が23億5700万円であったのに対し、2005年にはその10倍近い213億4200万円まで一気に増加(図1)。2006年も205億4500万円と200億円台を持続し、いまだ普及に向けた勢いが維持している状況だ。
「指紋認証」は、日本だけでなく世界中で普及しているバイオメトリクス認証の代表ともいえる存在。認証装置がコンパクトかつ低価格なため、容易に導入することができる。ほかの生体情報に比べて歴史が古く、技術やノウハウの蓄積も十分にある。また、携帯電話やPCに導入されるなど、身近な存在として一般消費者の認識が高まっているのも特徴といえる。
ごく最近の事例では、日本に入国する外国人に対して、指紋採取と顔写真撮影を同時に採取するように義務付ける制度が、2007年11月20日より開始されたことが記憶に新しい。この制度は、在日外国人など特別永住者と外交・公用の人を除く、16歳以上のほぼすべての外国人を対象としたもので、日本全国27カ所の空港および126カ所の海港において実施。米国に次いで世界で2例目の導入となっている。
「顔認証」では、歩きながらの照合が可能な技術や、人の顔を判別できる警備ロボットが登場するなど、活用できるシチュエーションも広がりつつある。しかし一方で、監視カメラのように“常に見られている”という感覚に抵抗がある人も少なくないため、プライバシーや肖像権にかかわる障壁をどのように取り払うかが課題だ。
この点について中嶋氏は「海外と比べて、日本ではプライバシー関連の法的、社会的対応が遅れている傾向がある」と話す。海外では、プライバシー法や電子政府法などの各種法律に加えて、独立検証機関によるプライバシー影響評価「PIA」(Privacy Impact Assessment)を積極的に実施している。
一方、日本ではいまだに十分な法律整備が行われておらず、PIA実施のめどが立たないのはもちろん、個人情報とプライバシーについての考え方さえ混同しているような状況だ。
また、中嶋氏が「現在オーストラリアやカナダなどで、ガイドライン策定が進んでいる」と述べるように、基準を設ける動きも見られる。
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