モバイルセントレックスの導入を検討する上で考えるべき点はどのようなものだろうか。TCOなどのコストと留意点についてみていこう。
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第1回にモバイルセントレックスをIP-PBX/SIPサーバと固定IP電話をLANケーブルで接続する代わりに、無線LANのアクセスポイントと無線LANモジュールを搭載した携帯電話によって内線/外線通話を実現するものと定義した。固定IP電話機とモバイルセントレックスのTCOを比較する上で、携帯電話のシステムだけを利用するといった広義のモバイルセントレックスのタイプを含めると複雑になるため、今回は先に定義したタイプでTCOを算出したい。
最初に、従来のIP-PBXによるIP電話との比較から考えてみよう。仮定の前提条件として以下の環境を設定した。
上記の条件では、従来からあるPBXを使い続ける場合の年間維持コストが5300万円となる。それに対し、IP電話での年間通信費は拠点間の通話が内線扱いとなり、また、外線通話はマイライン未加入という条件であっても、合計では年間600万円ほどのコスト削減効果が期待できる。IP-PBXの年間保守費用は、一般的には約700万円で200万円ほど削減できる。さらに、IP電話システム一式(ネットワーク機器を含まず)の年間償却費は1400万円ほどで、600万円を削減できる。つまり、年間コストはIP-PBX導入とIP電話の利用で1400万円の削減ができる計算になる。
次に、IP電話から無線LAN搭載の携帯電話を利用するケースで比較してみよう。年間通信費にはIPネットワークのコストが含まれている可能性もあるが、今回の前提では1800万円とする。また、社内および事業所間の通話と、取引先との通話も無料となるIP電話の場合の通話時間は設定していない(表1)。
これをみると、モバイルセントレックスによって固定のIP電話に比べてコスト削減が期待できるのは、表1の赤線で囲った社内から社員の携帯電話へかけるケースである。
同僚などへ連絡を取る際に、営業担当などの外勤社員や会議室や作業室などでの仕事が多い社員に対しては、直通あるいは代表番号に電話をかけてもつかまらず、携帯電話へ直接かけてしまうケースが多いだろう。無線LAN搭載の携帯電話を利用するモバイルセントレックスでは050番号のIP内線電話に発信して、通話先が無線LANのエリア内にいない場合にのみ、090番号の携帯電話へ接続する仕組みである。
このため、支社や営業所などオフィス内に相手がいる場合の通話料は無料となり、オフィス外にいる場合に携帯電話への通話料が発生する。表2のケースでは電話をかける際に3回に1回は通話相手がオフィス内にいるものと仮定した。この場合、携帯電話料金は年間で約336万円(約19%)削減につながることになる。
このほか、モバイルセントレックスによるTCOを細かく考えると、色々な要素を盛り込むことが出来る。しかし、その算出はかなり複雑で仮説に基づくものも多くなるために詳細な解説は控えるが、要素としては、以下のものを含めることができるだろう。
代表電話や直通電話の代理応答による間接業務へ与える時間的損失
代理応答時の本人不在による営業機会の損失
メールやグループウェアのカレンダー機能や会議室予約などの即時把握による、間接的な調整時間およびコスト(関連メンバーに空きスケジュールを電話で確認するなど)の削減
フリーアドレス制の導入によるオフィススペースの削減
初期設備投資費用とそれらの運用保守費用
モバイルセントレックス用端末と利用アプリケーションに対する教育およびサポートコスト
固定電話機に比べて増加する故障や破損、紛失に伴うコスト
通話品質の低下(音声品質の低下や切断の頻度増加など)
技術革新や競争原理によるTCO優位性の低下(携帯電話事業者の同一キャリア内通話定額制など)
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