「やる気」を組織論から考える努力をサバイバル方程式(2/2 ページ)

» 2008年05月21日 14時33分 公開
[増岡直二郎,ITmedia]
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IT投資の成果を引き出すカギは組織の中にある

 IT導入の「やる気」について考えていたら、こんな本と出会った。「IT投資で伸びる会社、沈む会社」(平野雅章著 日本経済新聞出版社)という本だ。その中にIT投資における組織力についても言及されていて、大変参考になると思ったので、紹介しよう。筆者が着目した部分を引用し、要約してみると次のようになる。

 “IT投資の成果は、「組織能力」に左右される”と実証データで分析している。「組織能力が低くてIT投資レベルが高い場合」よりも、「組織能力が高くてIT投資レベルが低い場合」の方が、一般的に収益性が高いとする。つまり、「組織は人なり」と言われるが、企業は組織構成員各人の能力によって左右されるのではない。企業の力を向上させるには、組織能力を向上させる必要がある。

 では、組織能力とは何か。まず、「組織」とは「コミュニケーションと意思決定のルールや仕組み」であり、「組織の能力」とは「コミュニケーションと意思決定のルールや仕組みの性能」である。普通の組織構成員が普通に仕事をして好業績を実現でき、万が一ミスや不正が発生しても、それを感知してカバーできる仕組みが組み込まれていて社会に迷惑をかけない組織が、その能力が高いと言える。

 ITと組織の関係について言うなら、ITがなくても企業内のコミュニケーションや意思決定は可能だが、組織能力が高いほどITによってその効率性と有効性は高められる。しかし、組織能力が低い時はITによってその弱点を解消できない。(要約終わり)

 以上のことを改めて考えてみると、「当たり前のようだが、プロジェクト成功の要諦だな」とうなづく読者も多いのではないだろうか。組織力を強める「やる気」は大いに普段から醸成すべきだし、それを作り出すにはどうすればいいのかを勉強しておくべきだろう。

 さて、A社の例を振り返ってみるなら、B工場よりもC工場D部の方が組織能力に優れていたのではないか。長年、非主流で草刈場の待遇を受けていたD部は、やっと巡って来たIT導入の機会を千載一遇のチャンスとしてとらえた。しかも周囲の冷たい目に対する反骨精神でシステムを何としても成功させようとして、D部構成員のコミュニケーションが優れて機能し、一方中心人物のE課長にあらゆる情報が集約されて、意思決定ルールも機能も高度に働いたのだろう。その結果、導入した生産管理システムは成功した。

 期せずして、D部の組織能力は高度に機能したのである。それに対して、B工場では組織能力に劣ったのだという見方はできる。

 確かに、D部の「やる気」が組織能力を高度に機能させるきっかけにはなったろう。

 通常の状態で組織能力を高度に発揮させることは容易ではない。そういう意味では、組織能力を高度に機能させるためのきっかけ作りは、重要であるし必要である。

 しかしA社が、「やる気」がIT導入の成否を分けたと考えている限りにおいては、先は望めない。組織論にまで考えをおよぼさないと、真の経営はできない。

 「不断の勉強」がなければ、組織論にまで考えを及ぼすことは難しい。

 前掲書は1つの例にしか過ぎないが、「不断の勉強」が企業人を利口にする。

プロフィール

ますおか・なおじろう 日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを歴任。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。現在は「nao IT研究所」代表として、執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)


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